靖国 YASUKUNI [DVD]
日本刀の職人刈谷さんに密着取材して、靖国や戦争への考え方を暴力の象徴を作り出している人間から聞きだそうとした企画が見えるが、既にそういったしがらみからは精神的にも引退され、職人としてひたすら刀作りにうちこまれる刈谷さんからは、何の話も聞き出せない。
それでも何とか引き出そうと、むりやり本を読ませたりして無理強いをしているように見える。やさしい語り口で刈谷さんにアプローチしているが、監督の本心は、靖国の核心(神体)は暴力(日本刀)にあるというメッセージを植えつけたいことは明白であり、刈谷さんの長い職人としての誇り高き生涯を侮辱するもののようにも見える。
対して、興味深かったのが、合祀問題といわれるもので、台湾原住民の代表とされる女性が、当時、台湾人なのに、日本人として徴兵され、戦死させられた挙句、靖国に祀られてしまっていることに対し、「死んだ後に魂まで奪うつもりか」と猛烈に抗議する。それに対して靖国側は、あくまで適当にあしらって相手にしないという態度。
同じく、日本人僧侶の菅原龍憲氏も、南方で戦死した父の合祀取り下げを訴え続けているが、氏の発言が非常に興味深い。「靖国は、戦前も戦後も、大東亜戦争は侵略戦争などではなく、聖戦であるという考え方をいささかも変えてはいない」。これは、三井権宮司の発言とされるわけであるが、極めて驚くべきことだ。
靖国側の取材はまったくなく、議論になっていないわけだが、非常に興味をかきたてられるという意味で作品の価値を認めたいが、ドキュメンタリー映画としては、あまり程度は高くはない。
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(追記)この作品を見てから、「ゴーマニズム宣言靖国編」を読んで、映画に出ていた台湾原住民と称する高金素梅のことを知った。元芸能人で母方は原住民ではあるものの父方は中国人。選挙で当選しやすくために初めて原住民であると宣言した人物であり、台湾の声を代表しているというよりは、中国の反日派とつながっているということだ。
片方だけの主張だけを取り上げるメディアがいかに危険かがわかる。