ベニスに死す〈ニューマスター版〉 [VHS]
言わずと知れたルキノ・ヴィスコンティの代表作。トーマス・マンの原作では初老の文学者である主人公を作曲家に替えて映画化。この映画の成功はなんと言ってもヨーロッパ全土数千人の中から選ばれたという空前の美少年・タッジオ役のビョルン・アンドレセンの起用による。彼にもし欠点があるとすれば、少年と言うには背が高すぎることくらいか。
その冷たいまでに美しいタッジオと彼を見つめる老作曲家アッシェンバッハとの間には、ついに言葉が交わされることはない。しかし、少年を恋焦がれる男、それに気づき誘うような素振りさえ見せる少年の二人の心理描写は見事としか言いようがない。
DVD化されないのはもはや七不思議の一つとでも言おうか。一刻も早いDVD化を望む。
The Boy
文章とその資料としての内容は大変よろしいかと思うのですが
表紙が写真だったので少年・青年の写真も多いかと期待して購入したところ
写真点数は表紙以外では25点程度でちょっと残念な結果でした。
部分写真やスナップのようなイメージフォトも含まれるので
男性を描くためのデッサン資料を目的に購入するにはちょっと勇み足だったかと…。
ただ、彫刻関係も多く収録されているので
資料価値自体はそれなりにあるかと思います。
本来の本のあり方とはちょっとずれたレビューかとは思いましたが
参考になれば…。
トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す (新潮文庫)
トーマス・マン『トニオ・クレーゲル』の邦訳は複数あるが、初めて読んだのが高橋義孝訳だったという個人的理由により、思い入れは本書が最も強い。
詩人にあこがれる少年トニオ・クレーゲルは、快活な友人ハンス・ハンゼンや金髪の美少女インゲボルグ・ホルムに一方的な想いを寄せるが、彼らから愛されることは決してない。やがてトニオは故郷を離れ詩人として成功するが、友人で画家のリザヴェーダ・イヴァーノヴナに「迷える俗人」というあまりありがたくない称号を与えられる。
ある日トニオはもはやだれもいない故郷に帰る。かつての自分の邸宅は図書館になっており、あやしまれたトニオは警察につきだされそうになる。
宿泊所でトニオはハンス・ハンゼンとインゲボルグ・ホルムのそっくりさんに出会う。物陰から二人を見つめながらトニオは郷愁に胸を押しつぶされそうになる。自分が仕事をしたのは君たち二人のためだったのだ。自分の部屋に戻ったトニオは、昔と同じ孤独な自分の姿にすすり泣く。
学生時代に読んだとき不可解に思った「どうして本人ではなくそっくりさんとの再会なのか」という疑問は、しかし今となっては氷解している。歳を取ったかつての親友や恋人と会っても、待っているのは幻滅だけである。美しい思い出を壊さないためには、たとえ別人でも若い二人が必要だったのだろう。
全ての文章が詩のように美しい。思い入れが強すぎて客観的な評価がもはや不可能な作品である。とはいえこれはやはり勝者の文学であろう。トニオは彼が最も愛する人たちからは愛されなかったが、その代わり読者や評論家たちからは愛された。地上の愛は手に入れられなかったが、名声は手に入れることができた。しかし現実にはどちらも手に入れられないのが人生というものなのだ。哀愁と郷愁と憧憬と嫉妬と、そして何よりも残酷な美しさをたたえた名作中の名作である。
ベニスに死す (集英社文庫)
主題は美(ならびに芸術)。題材は美少年に一目惚れした老男性作家。そのストーキング行為が厳かに描かれます。題材の破廉恥さと描き方の厳かさとのギャップに、これはひょっとしてなにかの冗談かパロディなのでは、と思う人は自分だけではないはず(おれだけ?)。
美にさして興味のない自分にとって内容は共感できない(というよりその芸術至上主義ぶりに辟易です)けど、小説としては美をもって美を語ってしまう希有な作品。緩急自在のピアノの演奏を聞かされているかのような。この文章は味わう価値ありです◎。小説ってこういうふうにも書けるんだって思わせてくれます。
他の翻訳で読んだことがないので比較はできないけど、この翻訳でおれは満足でした。
ヴェニスに死す (岩波文庫)
初老の作家グスタフ・アッシェンバッハは、ある日散歩に出かけ、ふと見た旅人の姿に旅情を掻き立てられて日常のわずらわしい規制から離れるべく旅に出た。旅先のヴェニスのホテルで美少年、ダッジオに心奪われ、自らを失い、破滅の道へと突き進んでゆく・・・。物語が醸す耽美な世界にぐいぐいとひきこまれてしまいました。トオマス・マンの最高傑作だと思います。