アリよさらば ('94放送 / 出演 矢沢永吉、長塚京三) [DVD]
みなさん酷評されていてびっくりしました。このドラマを見るまで、私にとって矢沢永吉は笑いの対象だったんですよ。演歌にしか見えないロック、ギャグにしか見えないビッグのカリカチュアとしての矢沢永吉。ところがこのドラマを見てリスペクトの感情が沸いてきたんですね。この人はファンのために職業矢沢永吉をやっているのだ、と。ストレートに役を演じるのではなく、矢沢永吉を業として一生演じ続けることを決心した一人の男が矢沢永吉が演じる役を演じることの困難さ…があるはずなのにそれを感じさせない。広く一般大衆に矢沢永吉の凄みを伝えることができたことで、このドラマは十分意味があったと思います。たとえそれがファンにとっては許されない暴挙だったとしても。少なくとも私にとって、矢沢永吉は嘲笑の対象からリスペクトの対象に替わった。私と同じ一見さんは多かったはず。矢沢を国民的ヒーローに押し上げるきっかけの一つとして、十分意味のある作品だったと思う。
あの頃映画 「東京夜曲」 [DVD]
市川準さんの世界、というような印象の映画です。
高層ビルなど視界に入らないような取り残された東京の上宿商店街。葛飾区でしょうか。
地縁で結ばれた人々の人間模様を背景に、消えていなかった線香花火の玉ような淡い恋が描かれます。
東京の風景に会話と音楽が被る場面など素晴らしいですね。
ジャン・リュック・ゴダールの雰囲気です。
静かな作品ですので、じっくりと鑑賞できる時にご覧になるべきかと思います。
揺れている水面に映った幾色ものネオンのように、手を触れると消えてしまう微妙で儚い恋心を映像の中に納めようとされたのでしょうか。
そういうものが伝わってきます。
桃井かおりさんの表情が魅力的でした。
破顔
『破顔』とは、いいネーミングです。黒を基調とした装丁も悪くないし、モノクロ写真もいい。中身は日経夕刊の随筆欄「プロムナード」に週一で掲載された小文25篇。
「たかだか七日ほどの間に、こころをよぎった由無いことを、ささやかな上機嫌にくるんでお話しする」と、後書きにありますが、私は著者長塚京三氏に共感するというより、新鮮な驚き(むしろ脅威の眼)を以って、全篇を一度に読んでしまいました。
内容を紹介するのは控えますが、本の題名と同じ「破顔」と「手のひら大」「甘えどき」などは、印象深く、いちいち腑に落ちるというか、本当にそうだなぁと感じました。少々むずかしいところも彼らしく、実に「おヌシ、デキルな」で、団塊近傍世代の読者には特に効果的かと。
『寒山拾得図』の、幽暗の中で不気味に”破顔大笑”する寒山と拾得の表情に似たアクの強い怪異さ加減もほどよく、俳優 長塚京三の破顔(歯顔?)は、したたかで且つ温かい。