木橋 (河出文庫)
裁判員制度導入にあたり、有名な「永山基準」の元になった筆者の作品を、ぜひ読んでおきたかった。 一気に読みきった。印象に残ったのは筆者の幼少期の痛いほどの魂と腹と知識の「飢え」だった。また無知と暴力に満ちた家庭に育った筆者が、弱冠19歳で4人もの尊い生命をライフルで奪い獄中に入って後、初めて貪るように本を読み学んだであろう文章力の確かさと、長年目にしなかったはずの風景スケッチの緻密さとにも驚嘆した。罪を犯す前に、何とかならなかったものか、してやれる事はなかったものか、と繰り返し呟かずにいられない。 筆者の死刑判決・執行は、私はその判決文も読んだが、惨めな生育歴を考慮しても、罪の重さを考えれば、納得に値すると思った。しかし裁判員制度が始まる前に、この本を読んでおいてよかったと思う。読まずに裁く立場になり、人を裁いたら、多分私は生涯後悔しただろう。最初は反抗していたが、死刑決定後、学ぶことに救いを見い出し、獄中で穏やかに執筆を続け、しかし執行時には再び暴れたという、破滅的な筆者の人生。彼は「心のアバシリ」に、死刑という形を取ってでも、どうしても帰らずに、いられなかったのだろうか。
裸の十九才 [DVD]
1970年公開作品。19才で殺人を犯して死刑囚となり、刑務所の中で独学してたくさんの書物を残した永山則夫の実話をモデルにした映画です。まったく罪のない人たちを殺めることに同情の余地はありませんが、この殺人犯の生きてきた道は見ていてとてもつらく、犯罪にまで追い込まれたことが彼の人間らしさなのではないかとも思えて来ます。
連続殺人犯を真正面から取り上げて、生い立ちから捕まるまでを描いたという意味では、ついこの間見た「復讐するは我にあり」と比較するのが普通かもしれないけど、私の頭に浮かんだのは秋葉原で起こった大量殺傷事件のことでした。
この映画では、極貧の家庭から中卒で集団就職のために上京した青年が、居場所を見つけられず、たまたま盗みに入った外国人住居で手に入れた拳銃で、次々に行きずりの人たちを殺していきます。その貧しさや都会での疎外感はこの時代特有のものに見えるかもしれないけど、私の目には秋葉原の男の子たちとそっくりに見えます。…むしろ、直接の人間関係が昔よりもうすく、ネット上の文字としてしか存在できない今の子たちの孤独は深いようにも思えます。
なんとなくだけど…本当に愛されたり祝福されたりしたことが皆無な人の感情は、この映画の主人公のように人間的に揺れたりしないと思う。末っ子として可愛がられたり、マラソンで1位になったりした過去の成功体験があるから、もっと与えられるべきだっていう気持ちで焦がれるんじゃないかな?
この映画をみてると、自分がこの映画の中のどこかにいるように、こわいくらい身近にも思えます。ゴーゴークラブの片隅じゃなくてTVのこっち側にいるのは、ほんの偶然。先週の今頃はあっち側にいたかもしれない。
MIDNIGHT + 1
ミュージック・マガジンのベストアルバムに入っていたので購入し、田中貴(サニーデイ・サービス)の解説を読んで新宿のコンピなんだと知った。本当に様々なジャンルの人が集まって音楽というおもちゃで遊んでいる感じが、新宿の街の混沌さとシンクロしてくる。大沢在昌/内藤陳/柄本明/高浪慶太郎/ギャランティーク和恵/堀込高樹/坪内和夫/西浦謙助/新宿金蝿/パーマネンツ/Pi-Ko/渚ようこ/ソワレ/石坂まさを/デリシャスウィートス/永山則夫...。ロック/ポップス/シャンソン/歌謡曲/ニューミュージック...。小説家/文筆業/コメディアン/歌手/ミュージシャン...。選者のセンスと参加ミュージシャンのコラボに良心を感じる秀作。
無知の涙 (河出文庫―BUNGEI Collection)
4人の命を奪った永山則夫は、獄中で本を貪り読み字を学びながら、生まれて初めてノートを綴りました。そして「無知の涙」を書きました。
極貧の生活環境が彼の犯罪を引き起こしたとされたことからその著書も注目されるわけですが、私たちの多くは、普通の教育を受けながらも本を出すということはそうあることではありません。
永山則夫がまともな教育を受けていたら4人の命が奪われるという事件は起きなかったかもしれません。そして、「無知の涙」とは縁のない本を書くこともあり得たのではないかとも思います。そのことを思うと、教育の重要性を痛感します。
彼の著書は、普通の教育を受けた人以上に社会に向けて問題提起している面があります。獄中生活を送る中でしかそういう能力を身に着けざるを得なかったことが残念でなりません。