学問と情熱 西田幾多郎 物来って我を照らす [DVD]
獨協大学教授、松丸壽雄先生監修による、西田幾多郎に関する概説VTRである。
基本的には西田の生涯について、順を追って紹介している。
西田における「人生の悲哀」に焦点を当て、次々と家族を失っていく姿を描いている。
西田に対する批判的な部分はなく、あくまで一般向けに紹介することを目指したと言える。
当時の写真や再現VTRなどが、ふんだんに盛り込まれていて、飽きさせない。
通常の解説本に比べて特徴的なのは、西田の太平洋戦争に対する態度に踏み込んでいる点である。
このVTRによれば、西田が当時書いたものは、当局によって改ざんされ、
戦争に賛成であるかのように偽装されていたという。
孫の西田幾久彦氏が、子供のころ、戦争に賛成のようなことを言ったら、
西田幾多郎に叱られたという話も面白い。
一方で、このVTRは、いわゆる「京都学派」については、ほとんど解説していない。
「弁証法的一般者」や「絶対矛盾的自己同一」も一切登場しない。
それでいて、西田の哲学に関する解説は、西田幾多郎記念哲学館の展示などに比べれば、
あまり分かり易くない印象を持った。
ともあれ、西田ファンの人はもちろん、西田に興味がある人にとって、
下手な概説本を読むより、よほど引きつけられる内容になっていることは確かである。
謎の物語 (ちくま文庫)
どの作品も読み手の心に激しい動揺と余韻を残す名作ばかりです。かならずしも恐怖ではないですが...読んでよかった、よくぞこういうアンソロジーをつくってくれたものです。
難しい漢字には読み仮名がふられ、古い表現には注がつけてありますので、小学校高学年で読むことも可能でしょうが、内容の読み手に及ぼす波紋を考えますと、中学生以上に限ったほうがいいかもしれません。銅版画風の挿絵が独特の雰囲気をかもし出していて、素敵です。
古本屋探偵の事件簿 (創元推理文庫 (406‐1))
この本のおもしろいところは、どんなコレクターにも
共通することだが、個性というか異常性が描かれているところで
推理小説としては今ひとつ。
特に一番の長編である「夜の蔵書家」はピークが最初の方にあり、
先が知りたいという欲求はあまり起こらなかった。
例えていうなら、横溝正史の市中ものを見ているような
物足りなさを感じた。主人公も苦手なタイプの人間で、色気もない。
そういうわけで、スリルとサスペンスを求める人にはやや
退屈なページもあるだろう。
それにしても古本屋というのは居心地の悪いものだ。そしてこの本からは
居心地の悪さが同じようにつたわってくるため、少々疲れる。
それだけリアルということなのかもしれないが。
古書収集十番勝負 (創元推理文庫)
紀田さんは出版文化史、整理学、文学研究の泰斗ですが、元来は推理小説、怪奇小説のマニアからスタートしています。そんな紀田さんが古書業界を舞台に書かれた推理小説が本書です。私は紀田さんのファンですから、単行本が出版された時に読みました。今回タイトルを変えて文庫が再版されました。
神田神保町、世界有数の古書街ですが、本書の舞台は神保町です。その神保町で店を構える村雲書店、余命幾ばくもない店主は店の跡継ぎを決める為に、タイムリミットまでに希少価値のある古書10点を妥当な価格で蒐集するという課題を出します。その10点とは、徳永直:赤い恋以上 夢野久作:白髪小僧 海野十三:十八時の音楽浴 、他7点。後継者となるため2人は課題書を次々と入手していきます。しかし、かなり入手困難な本も何点かあり、そんな時に舞い込んだのが笠舞浩一郎なる人物から届いた古書リストです。入手困難な本も混じっています。そして、関係者はそのリストに引かれ、オークション会場に向かいますが・・・
推理小説というよりは、神田神保町、そして、そこに蠢く人達の生態を描いた古書風俗小説といった趣の本です。珍しい古書、その値付け方法、珍しい競りの方法とかが描かれていていますし、いかにもいそうな古書マニアの生態も描かれています。また、選定されている古書もマニアなら欲しいと思うような本が巧に選ばれています。
梶山さんのせどり男爵数奇譚を挙げるまでもなく、古書を扱った文学は昔からありますが、推理小説と結びつけたのは本邦初?ですかね。
昨今、マンガで古書ブームが起こり、小山清の落穂拾いが見直されているようです。このブームが一時的なものに終わらないよう願っております。