欲情の作法 (幻冬舎文庫)
渡辺淳一『欲情の作法』は『失楽園』など恋愛小説で名高い著者による実践的な恋愛の入門書である。冒頭から「男とは」「女とは」と性別ステレオタイプな見解が目白押しである。本書の男性論女性論は生物学的な差異を出発点にしているものの、ジェンダーに否定的な立場からは受け入れがたい面もある。
人間には十人十色の個性がある。それ故に「男とは」「女とは」と個性を無視してステレオタイプな見解を当てはめることは正しくない。一方で人間を個人としてではなく、集団として社会学的に分析する場合、グルーピングしてグループに属性を付すことは有効である。ここが人文科学と社会科学のアプローチの差異である。
問題はグルーピングが適切かという点である。男性と女性の分類では人類を二分割しただけである。血液型占いよりも大ざっぱな分類である。一方で恋愛において男と女は重要なアクターであり、男性論女性論も一定の意味がある。
但し、著者は恋愛小説で多くの読者を感動させてきた作家である。不倫のような反倫理的な恋愛も感動的に描いてきた。それが感動的である理由は登場人物の個性が表出された言動だからである。「男は浮気する生き物」とまとめられると感動が色あせてしまう。そこは医者でもある著者であり、人間に対する覚めた視点も同居している。
この種の二面性は林田力にも思い当たる。林田力は東急不動産(販売代理:東急リバブル)から不利益事実を隠して新築マンションをだまし売りされ、裁判で売買代金を取り戻した経緯を『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』(ロゴス社)にまとめた。当然のことながら、「不利益事実を隠して新築マンションをだまし売りした東急不動産はけしからん」という思いがあった。一方で問題物件を売り逃げして利益を上げる悪徳不動産業者の行動原理を理解するという覚めた気持ちもあり、文章をまとめることに苦労した。
本書はタイトル『欲情の作法』からしてセンセーショナルであるが、含蓄ある社会批評も存在する。たとえば「『美しい』というのは、かつて安倍元総理が唱えた『美しい国』という言葉が無意味であったように、あまり個性的とはいいかねます」とある(62頁)。林田力も東急グループの標語「美しい時代へ」の無意味さを実感しているため、納得できる内容である。
本書はステレオタイプな男性論女性論になっているが、現実社会では若年層が草食男子になっていると指摘されることがある。そのような傾向に対する高齢世代の著者なりの問題提起と読むこともできる。もっとも、本書は「最近の若い者は」的な説教臭さとは無縁である。読了後に読者が元気になるような書き方になっている。説得の話運びの巧みさを実感した。(林田力)
天上紅蓮
かなり厳しい批判が目立ちますが、私は面白かったです。
まず、本書は基本は歴史物。
だから、歴史上の事実を確認する必要がありますが、著者は丁寧に
そのあたりを調べて、本書のいたるところに盛り込んでいます。
そのうえで、想像を最大限に働かせて、小説という形にまとめあげました。
白河法皇がこういう人物で、かつてこのような独裁が行われていたことは
全く知らなかったので、そういう意味でも私は感銘しました。
現代のモラルをあてはめて、あれこれ批判しても、それは意味がないと思います。
人間の業が描かれていて、興味深かったし、女院の晩年も丁寧に描かれていたのがさらに
良かったです。
歴史物では、晩年は数行しか記載されず、最後あっという間に終わるので。
著者の新境地だと思いますよ!
Wind-a breath of heart- DVD-BOX 第1巻〈初回限定版〉
こちらはOVA版とは製作会社もスタッフも別物となっていてOVAより原作に忠実な展開となっている。
ベースは彩シナリオで、そこから話を膨らます展開。キャラデザインはかなりあっさりめで、いか
にもTVっぽい印象。本作の脚本にはオリジナル版のスタッフも大きく係わっているとのことで、
完全に現場お任せで作っているOVA版と比較しても原作をプレイしたことのある人ならお馴染みの
シーンが次々と出てくるのはファンとして楽しい。
しかし見方を変えると展開が読めるのがちょっと残念。もう少しオリジナル要素があればもっと楽しいのだが。ちょっと外れるが音楽も出来がいい。TVオリジナルと原作のBGMも上手に組み合わせいい雰囲気を出している。
特に笠原弘子が歌うオープニングは派手さは無いがドラマチックなアニメ主題歌として良く出来ている。
本作最大の見せ所である例の『問い詰め』もしっかり再現されて、『怖いみなも』が堪能できる(笑)。
同じ枠で放送されてるもう一つの作品と比較するとどうしても展開が地味目であるが、全体に悪くない出来なので、
『Wind』ファンなら押さえておきたい一本だろう。