野球の神様がくれたもの
タイトルから自伝のような内容かと勝手に想像していたが、
著者が大学院にて研究していたものが中心であった。
前作・前々作の「野球を学問する」「心の野球」を読了された方は、さらに深めて消化できることが出来ると思う。
非常に興味深かったのは、野球のアマチュア指導者に関しての記述である。
練習時間や指導の姿勢など、アンケートによって統計をとられている部分もあるので具体性、説得力がある。
指導者の指南書となってほしい、そういう一冊であった。もちろん指導者というのは野球以外の分野の人たちにも。
心の野球―超効率的努力のススメ
桑田真澄はともすると無責任なマスコミ報道だけを流し聞きする中で決して良いイメージを
抱かない選手である。しかしその戦跡をみるにそれだけの印象で彼を捉えるのは大きな損失
ではないだろうか。
もちろんマスコミを騒がせたそれぞれの報道の真相も語るが、主題はそれではない。2010年春
現在最新の早稲田大学院を卒業した彼の総括本と呼べるだろう。
スポーツ選手として科学的でもあり感謝の気持ちも人一倍強い彼がその中で願って背負った
背番号18に対する決意と念い、そして自分の人生に価値を与えてくれた両親、友人、先輩
コーチ、監督、彼の人格をなした全ての人物へ感謝を込め、その出会いも記している。
その反面信仰心と理解するべきなのだろうが、彼の言うところの『神の声』に従う姿勢は一見
他力本願とも受けとれるし、実態の無い『神』に身をゆだねるスタンスを読者はどう感じるか
判断が分かれるところだろう。
生真面目な彼の辛抱強くいかなる逆境も静かな闘志で受け止めてゆく彼の姿勢。気になるのは
札幌で自殺を思いとどまる場面でも感じる幾分生真面目な故に、精神が剛性はあるが細い印象
を受ける事で、今後の指導者や進路の中で何度も蹉跌は起こるであろう予感がある。
ピッチャーでありながらバッティング成績もよい希有のピッチャーをこの本で是非一度おさえて
置いて欲しい。
試練が人を磨く 桑田真澄という生き方 (扶桑社文庫 く 8-1)
95年に刊行された単行本を文庫化したものを、更に昨年、パイレーツを退団した後に加筆されて出版された本です。
最初に出版された時、桑田さんはその年の5月に対阪神戦でファーボールを捕りに行って大怪我をし、復帰まで約2年間かかることも、02年巨人が日本一になり、自身も最優秀防御率投手賞とゴールデングラブ賞を獲得することも、06年に巨人退団、パイレーツとの契約、07年のメジャー登板も知りません。しかしながら、桑田選手が何を目指して野球に取り組んでいたかが書かれていて、こうした結果になるという事がすでに予言されていたような内容です。特に「結果の上にプロセスがある」という考え方に立つと、すぐに結果を求められていたはずのプロ野球選手の言葉とは思えないほどの説得力があります。
他にも、運命のドラフト事件の誤解や、金銭疑惑、野球賭博事件、不動産での借金などのスキャンダルについても、桑田さんの言葉できちんと書かれていて、それを戦ってこれたのが、小・中・高校と野球がうまいことからこそ受けたイジメに負けなかった事だというのが桑田さんの強さなのだと思います。また、桑田さんが世界一のバッターだと思っている清原選手とのエピソードや、桑田さんが特に好きだという長嶋監督の練習についての言葉は、何を持って相手を認めるのかという良い例だと思います。
95年当時にすでにこの本に書かれていた桑田選手の更なる未来が実現するよう、応援します。