美と犯罪
アングラで妖艶な毒気に満ちたシャンソン歌手。どぎついまでの濃さ。触れてはいけない禁忌の世界。エロティックで頽廃的な美と胸を引き裂くような悲哀に酔いしれることができる。シャンソンには詳しくないのでよくわからないのだが、たぶん外国のシャンソンを和訳して歌っているものが中心。
「人の気も知らないで」は愛を知らず欲望だけを貪る無慈悲なバイセクシャルの男を愛してしまった女の自嘲的な嘆き。「ジョセフィーヌ」はコケティッシュで刹那的な外面とその裏の憂鬱、空虚な魂。フランス1の娼婦…かつての栄光。サビの切ない高揚感がたまらない。「哀訴」は落ちぶれ捨てられた男娼の悲嘆、自暴自棄、あきらめ。「イザベル」は幼なじみの同性を愛してしまった女の狂おしい嘆き。執拗に繰り返される愛の言葉。むくわれぬ愛。情の込もりまくった語りが中心、ピアノ・シンセ・女声コーラスの切ない旋律がその悲しみを更に煽り立て、胸が張り裂け飛び出す自嘲的な笑い声、最後にシモーヌさんも歌いだす。あまりにドラマチック! 「アムステルダム」は後半の盛り上がりが素晴らしい。「マチルダ」は悪魔のような女の物語。「オルガ」はピアノが軽快に飛び跳ね、ステップを踏みたくなる。落ちぶれた歌手、あるいは虚言癖、妄想。私、昔スターだったの…本当よ。酔いつぶれて見た華やかな幻覚、そして悲劇。クライマックスの恍惚とした美しい歌声が切なすぎます!「再会」は非常にドラマチック。酒場で歌う男、自分の歌をいつもリクエストしてくれる同性の客への片思い、歌っている時だけはあんたを捕まえたつもりでいた。悲痛な演技に圧倒される。