このゲームは、1991年の大河ドラマ「太平記」をテーマにして製作された、NHKエンタープライズ社の戦略シュミレーションゲームである。そもそも「太平記」とは何かというと、応安〜永和に成立した、北条高時失政から建武中興を始め、南北朝時代争乱を華麗に書き出した、全40巻に及ぶ、超大河軍記物語である。この物語が伝えたいものは何か?それは一言でいえば「人間社会の険しさ」と言えよう。大河ドラマを彷彿とさせるような2つのシナリオを始め、天候、時間、相性等、バリエーションにとんだ、戦略が楽しめたりと、思考を凝らした遊び方ができる。尊氏VS義貞の中世頂上決戦をPCEを触媒として刮目して見よ。
NHK大河ドラマ 太平記 完全版 第壱集 [DVD]
倒幕に向けて、ある意味単純な生き方で済んできた前半から一転して、後半はまさに変転極まりない足利尊氏の後半生が語られる。
とにかくこの南北朝時代というのは、乱世の戦国時代が単純明快に思えてくるほど複雑極まる乱世の中の乱世ともいうべき時代であり、生半可な勉強ではとてもじゃないが理解の及ばぬ時代といえる。歴史大好き人間の私も、未だによくわからない。
その「理解不能」の象徴ともいうべき人物が、我等が主人公足利尊氏公である。
真田真之がその主役を演じるこの「太平記」は、その「理解不能」な不思議な人物を見事に描ききった大河ドラマ史上一、二を争う傑作中の傑作といえよう。
よく大河ドラマでは主人公を美化して「良い子ちゃん」に描く傾向があるが、足利尊氏くんの場合困ったちゃんなのは、その優柔不断な甘チャンぶりがどうも史実だったらしいことなのである。
一方で、突然別人のような決断と勇猛さ、果断を見せたことも史実であり、更には弟を殺し、実子と戦う冷徹さも持ち合わせており、専門家からも「二重人格」「躁鬱気質」と評される所以であろう。
後醍醐天皇と全面対決を嫌がり、マジで出家遁世してしまったことも史実であり、その後も事あるごとに南朝と和解したがり、後醍醐天皇の崩御後に度を越して嘆き悲み、直義や北朝の朝廷を困惑させたことも史実であり、敵である楠木正成を本気で尊敬していたらしいことも史実である。
(彼の子の足利義詮に至っては、楠木正行を尊敬する余り遺言して正行の墓の隣に葬ってもらった)
井沢元彦が酷評しているように、国家百年の基を立てる政治家としては明らかに三流であり、武将としても勇将かもしれないが戦略全体をデザインできるような視野の広さもセンスもなく、惰性化した戦乱を100年近くも続けさせてしまった元凶という他はない。
一方で、説明不可能という他はない、巨大なカリスマ、魅力の持ち主であり、佐々木道誉や赤松円心、その他一癖も二癖もある武家達が、尊氏にだけは心服しきっていた。
ドラマでも、佐々木道誉と赤松円心を心服させるくだりや、観応の擾乱において直義に敗北した後、負けたくせに妙にデカイ態度でいつの間にか主導権を取り戻してしまう辺り、ただの良い子ちゃんでは不可能なカリスマ、凄みを上手く描いている。
こういう不思議な人物は、日本史の前後に例がなく、強いて例を挙げるとすれば、前漢の高祖・劉邦がより巨大な例ではあるが似ているかもしれない。
太平記 (日本の古典をよむ)
この本は、同出版社から出ている新編古典文学全集『太平記』を基にして、有名な箇所・読みどころ・重要な点について、訳・原文、そして時代状況の解説までついている良書である。
全体の構成は四部となっているが、これは基になった新編古典文学全集『太平記』が四巻の構成であるため、こうなっている。もっと深く知りたくなったら、調べられるようにとの配慮であろう。
一般に言われる「太平記三部構成説」による分類ではない。
最初と最後に、小秋元段氏の解説がついており、さらに理解が深まる。
系図・写真も掲載があり、この値段ならば買いであろう。
太平記〈上〉―マンガ日本の古典〈18〉 (中公文庫)
マンガとしての説得力は本書の方があります。ひきつけて離さない絵の力と言うものを感じます。職場での休憩時間にサラッと読めるものをと思って買ったのですが、読み始めたら最後、一気に太平記の世界に引きずり込まれてしまいました。マンガ版で太平記を読みたいと思う方ならば、他社から出ているものよりも、さいとう版太平記を読むことをおすすめします。読み比べれば分かると思いますが、圧倒的な迫力の違いを感じます。
私本太平記(一) (吉川英治歴史時代文庫)
山岡荘八の新太平記を読んだあと、本作を読んだ。山岡太平記では、善の正成、悪の尊氏と、対立軸がはっきりしており、
物語として面白い、本作では、正成が山岡版ほど登場も多くなく、善の象徴として描かれてはいるが、一登場人物といったところ。
状況により芯がぶれる尊氏が、ぶれない正成に心酔するあたりが、読み応えがあった。
全体的に戦いの描写は淡々と描かれており、尊氏の苦悩によりスポットをあてている、
北条氏没落後、京都が、後醍醐側と尊氏側で目まぐるしくとったりとられたり、武将が頻繁に寝返ったり、肉親と離反したり、
当時の不安定な混乱の時代がよくわかる。
最後の章である『黒白問答』は、当時の世相を俯瞰して語られており、且つ死んでいった無名の士に対しても思いを馳せており、
興味深かった。