ドキュメント口蹄疫―感染爆発・全頭殺処分から復興・新生へ
平成22年4月、我が国有数の畜産県の宮崎で突如、「口蹄疫」の発生が報じられた。感染はその後、爆発的に拡大した。関係者の懸命の防疫努力によって終息したが、292戸(約21万頭)という我が国未曾有の畜産災害となった。
本書は、地元紙「宮崎日日新聞社」による「口蹄疫」の発生から終息までの約4か月間にわたる詳細な「ドキュメント」である。流石に地元紙である。記者の宮崎県への愛情、農家に寄り添う姿勢、そして畜産県の記者としての日頃の知識があってこそ後世に残すべきこの「ドキュメント・口蹄疫」が完成した。
「口蹄疫発生」は、戦争や大規模災害に準ずる国家危機の一つであり、国家防疫の見地から発生初期から国の関与が必要である。初期防圧に失敗して感染が爆発的に拡大した時期に当時の農相が国を留守にしたことは常識では考えられないことである。それでも多くの関係者の努力によって終息させることができた。その中にあって山田農水副大臣(後に大臣)の働きは評価されるべきであろう。この「ドキュメント」は多くの政治家が登場する。危機に及んでのその言動から政治家の本性が見えてくるのが面白い。
「宮崎の口蹄疫」は、その後に起こった「東日本大震災」の陰に隠れて忘れてしまいがちである。しかし、再発防止のためにも記憶を風化させてはならない。畜産に関係のない人にも是非、読んでいただきたい。多くの教訓がある。
実名小説 口蹄疫レクイエム 遠い夜明け
宮崎県で発生し、多大な経済的被害と畜産農家をはじめとした地域全体に大きな心の傷を残した口蹄疫の悲劇を人間的ドラマとして描いたノンフィクションらしき小説である。
どうしてこんなに関係者の気持ちやら判断やらを断定できてしまうのか良く解らないが、最前線で飛び回っておられた山田議員のことだから、書かれていることは事実に近いことなのであろう。少し(もしかしたらかなり)身びいきのところがあると思うが、この小説は、口蹄疫との闘いを風化させないためには超一級の作品。
全体を通して流れるのは、山田議員の口蹄疫被害者・関係者への熱いシンパシーである。
進めようとする口蹄疫対策に対して、各市町村の長は本来は自分達が対策をとらなければならない当事者であることを棚に上げ、当初は代案も示さずに反対する。しかし、「日本の畜産のため」に頭を下げて頼み込む山田先生の誠実な態度に促されて、各市町村長は国の対策を受け入れ積極的に協力するのである。
しかし、唯一こうした人情が通じないのが、ポピュリズムに基盤をおく東国原宮崎県知事。彼は、口蹄疫を終結する方法を真摯に考えない。ただ、「口蹄疫の国内蔓延により国家的大損害」を人質にとって国との駆け引きをうまくやり、いかに有利な条件を引き出すかに全勢力を傾けるのである。あげくの果てには、殺処分を拒否した畜産農家に対する説得を拒否し、問題の本質を全く分かっていない一般人から署名を集めて当該農家の牛の延命措置を農水省に要望するのである。マスコミはほとんど取り上げず、この本にも遠慮がちにしかふれられていないが、南九州一帯の畜産農家と畜産関係者は、感染地一帯の畜産農家が「九州のため国のため」に苦渋の決断をして受け入れた犠牲的行為を無にしようとするこの知事の行動に激怒したのである。
山田元大臣は爆発的な感染拡大を止めるために感染地周辺の非感染牛のワクチン接種・殺処分を決断した時に「自分が悪者になってなんとしてでもやり遂げる」ことを決意したというp.132。重大事案に対処する政治家の資質としてはこうした「大義のために悪者になる覚悟」である。
もし、東国原知事の民間種牛延命要望が農水省に受け入れられていれば、次に口蹄疫が国内で発生した際に殺処分拒否農家が多く出てくることは確実であり、次回口蹄疫発生後は日本の口蹄疫清浄国復帰は不可能となるという日本の畜産の悲惨な運命が決定されてしまうところであった。ポピュリズム政治家は悪者となる覚悟が無いために国家を危機に陥れるのだ。
多くの人がこの本を読んで、無知なマスコミにおどらされずに、ポピュリズムにおもねる政治家ではなく危機に対処できるきちんとした政治家を支持するようになって欲しい。福島原発事故の対応がずさんで全く進まないのは中心になって問題解決に取り組む「悪者になる覚悟」のある政治家がいないからだということがこの本からも良く解るではないか。
太陽のメロディー
一曲だけやけどお値段もすごいお手頃で宮崎県の力になれるのでうれしいです。
他のレビューのとおりとても優しい曲で今井さんの声がいいですね。(*^_^*)
★5つには間違いないんですが、コブクロファンの自分としては、黒田さんの歌声がもう少し欲しかったです。
畜産市長の「口蹄疫」130日の闘い
美味しそうに育ったきれいな豚や牛が毎日ムダに殺されて埋められた口蹄疫被害の現場からのレポートが、2010年10月に1冊の本として発売されたことにこそ、素晴らしい意義があります。大量の家畜殺処分中の畜産農家さんたちの状況や気持ちだけでなく、殺処分にならずに済んだ農家さんたちの気持ちも書かれていて、人間の社会の複雑さを感じました。被害の出た全域でまだまだ大変なご様子ですが、終息宣言後、競りが開始されてから、あらためてみなさんに取材して今の心境を伺っているところに救いを感じます。