ヘヴン
川上さんの作品をまとめて読むのは初めて。詩も書く人の小説としてはくせのない散文で読みやすい。斜視の中学生の「僕」が受ける激しいいじめ、「僕」に「仲間です」というメッセージを送ってくる、やはりいじめられっ子の同級生の女子「コジマ」との出会い、「コジマ」が語る「ヘヴン」。と、ある意味こんなに分かりやすくていいのかな、作者は本当にひりひりした心をもってこんな話を書いているのかなと、3分の2くらいまではちょっと眉に唾をつけつつ読んでいたのだけれど、偶然に「僕」が学校外で会ったいじめグループの「百瀬」が語る人間観(いじめには善悪のような意味はない)、いじめは選ばれた者がいつかヘヴンに辿りつくための試練だとする(いじめには意味がある)「コジマ」の辿る最期(?)には胸をえぐられる思いがした。
しかし、この展開は相当に作者の想像力による「作り物」という気もする。「いじめ」の陰湿さとはもっと違う、もっと静かで不気味なものではないかと。お話の上手さ、出来の良さはハイレベルだけれど、人間の怖さはもっと可視化できないところにあるのではという気持ちが残る。
曾根崎心中
専ら徳兵衛が追い込まれる経緯が描かれるこの作品を、徹頭徹尾お初の側から描いた物語。有名な封印切りの場面すら全く描かれない。恋とはどういうものか、そのすさまじさを際立たせるために、徳兵衛が有罪であったことまでにおわせるコペルニクス的転回に驚かされるが,同時に作者の筆力に圧倒させられる。
文明の子
テレビの太田光より、すごくピュアで、素直で、単純で。
著 太田光
というだけで様々な第一印象を拭えないけど、そんなことがぶっとぶくらいの作品の力がありました。
2作目が出て、前作の「マボロシの鳥」と比較するとやっぱり「マボロシの鳥」は太田光が強かったなぁと思いました。
処女作より2作目がはるかに面白くなっていて、本人も「マボロシの鳥は駄作だ!」と言っているのを聞きました。
あの歳で、常に新しいものを愛せたり、発見したり、生み出したりするのがすごいし、感性の才能を感じる。
さらに文中にもあった、「未来はいつもおもしろい」という文章が、極端ですが、震災後の日本だったり、太田光の才能の無限さを表現してるような気がして、とても心に響いて大切にしたい言葉、常に頭においておきたいなぁとそんな風に感じました。
評価は3つです。ベタですが才能に限りをつけてほしくないと思い、3つにしました。
どんどん作品を作ってほしいです。3作目を出したら、また「文明の子は駄作だ!」と言ってほしいです。
頭の中と世界の結婚
演奏はシンプル。歌声はエモーショナルで……歌い上げてくれています。理想的な歌声。
感動しました。一回聴いて、
「名盤だ」
と、思いました。
こんなアルバムは本当に久しぶり。
もちろん、捨て曲なし。
最高です。
こんなアルバムを埋もれさせてしまっている日本の音楽シーン、音楽ジャーナリズムが心配です。
……そこまで思わせてくれます。
7曲目、「結ばれ」、
ジャニス=ジョプリンとジミ=ヘンドリクスの共演が……現実化した……!
本当に、最高。
ありがとう、川上未映子さん。
乳と卵(らん) (文春文庫)
改行なしでえんえんとつづくうたうような文章が、
読み始めは少し読みにくく感じるのだが、
慣れると読みやすく、気持ちいい。
ただ、文体の面白さに反して
話の展開は芥川賞的というか、
おさまりがよすぎるというか、
起承転結的な感じで物足りなく思った。
賞取りに行ったということもあると思うし、
分量的なことも考えるとしょうがないのかどうか……。