遠きに目ありて (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
確かにあっと驚くような傑作はないかもしれませんが、毎回よくこれほどの水準をたもてるものだなーと驚かされる内容の連作短編集です。 現在ではあたりまえになってしまった科学的、専門知識をちりばめたミステリーではなく、古典的な安楽椅子フー・ダニットのスタイルで書かれているので、どなたもリラックスして楽しめるでしょう。 難しすぎも生々しすぎもせず、こういう家族的な雰囲気をたたえた質の高いミステリーというのは、あまりにもせちからく暗い当節、望むべくもないのかも知れません。 子供を使った大人向けミステリーというのは、実際には書くとなると相当大変だと思うのですが、これは難しいタイプの内容を見事に生かしきった佳品といえるのではないでしょうか。個人的には第2話と5話がよく出来ていると思います。
これを読んで気に入ったという方には、ぜひとも筆者一世一代の傑作“大誘拐”にお進みください。
手紙 -殺しへの招待- DVD-BOX
不可思議な手紙から始まる殺人、そして描かれる複雑な人間模様…。夫婦とは、男と女とは、そして人間としての姿勢とは何かを問いかけてくるエロティックで秀逸な内容は一見の価値あり。竹下景子のひたむきさ、初々しさが光る。個人的にはトップ屋のハトリさんが◎。
陽気な容疑者たち―天藤真推理小説全集〈2〉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
1963年に東都書房から出た単行本の復刊・文庫化。
昭和37年度の乱歩賞の最終候補作に残った作品。著者の長編デビュー作でもある。
作風は当初から確立されていたようで、ユーモアのある味わい、人を食ったような展開、幸せで優しい結末はいかにも天藤調。
ミステリとしてはいささか不満が残る。プロットは良いが、トリックがいまいち。
大誘拐―天藤真推理小説全集〈9〉 (創元推理文庫)
誘拐された老人が、逆に犯人達をアゴで使いその後のストーリーを描くという奇想天外な発想もさることながら、
その降りかかった不幸を自分の人生設計の一部に組み入れてしまう、見事な身代金受け渡しに至るまでのトリック
は今読んでも新鮮で斬新です。
一切の誰もが傷つかないこと、犯人達の人間性や、逮捕できなくても優秀な警部など、読後の清涼感に至っては
ここまでの作品は他に類を見ません。ミステリーとは言えないかもしれませんが、ミステリー好きを自認する方は必読です。