歌劇《トスカ》 [DVD]
アヴァドじゃなくリカルド=ムーテイでしたね。この映像は最高ですね。特にトスカ役の女優。決してトスカ向きではないんですが、彼女が歌う『歌にいき、恋に生き』では、彼女はひざまづいて歌うんですよ。合唱をちょっとでもやったヒトならわかると思うんですが、あの姿勢であの声量です。そして悔しいことに、この映像、何度も何度も見ているとトスカははまり役であることに気がつくはずです。強烈です。
私が一番好きなのは、1幕最後のテデウム。スカルピアが聖堂内で2匹の獲物を狙うと歌うそばで、荘厳なテデウム(私は神を崇めます)が大合唱で流れるシーンには鳥肌が立ちます。映像に写っている合唱隊のスカルピアの右側の女性が歌い始める口元、テデウムを歌うためだけに振り向く聖職者の一群、それらを私は実際に見たものですから、このDVDには思い入れがあるんです。ほかのDVDなら、トスカが絶品とか言う票が多いでしょうが、これは見れば見るほど味が出るDVDです。
プッチーニ:歌劇「トスカ」(全曲)
すべてはムーティの棒のもとで行われる悲劇です。一幕の最初の音は、三幕の悲劇に向かって怖いくらいに持続します。きれいな音楽になりがちな三幕も弦のポルタメントによる効果など、トスカがこの上ない悲劇であることを再認識させてくれます。歌手では、テノールのリチートラが知的なカヴァラドッシをムーティの音楽に沿って好演していると思います。その他グレギーナもヌッチも期待通りの歌唱をしています。このCDは、ムーティの今の音楽の方向をよく示したすばらしい記録だと思います。