神様のカルテ スペシャル・エディション [Blu-ray]
深川監督の作品は「狼少女」のころから観ているが、当時の「昭和ノスタルジー」
からは一皮も二皮も剥けて、近作はどれも見応えのあるシャシンばかりだ。
本作も「医療ドラマ」というよりも、あくまで人間の絆を描いた良作だと思う。
感覚的には成島組の「孤高のメス」と似たような印象を持ったが、あちらは
あくまで勧善懲悪の「西部劇」だったので、より人間の「尊厳」を謳った
本作は感動を呼ぶのだろう。
まあ両方に柄本明は出演している訳だが(笑)。
特に伽賀まり子の存在感と芝居は一級品だ。
個人的には「Love Letter」以来の素晴らしさだったと思う。
宮崎あおいがどちらかというと「脇」だったので、本当のヒロインは
伽賀まり子だった。
ただし、その脇を固める布陣は素晴らしいのにエピソードに乏しいのが
残念だった。朝倉あき演じる新米の看護師も、突然恋愛シーンまで
披露されるが、そのバックボーンが浅いので、乗りきれない。
岡田義徳演じる友人役もしかり。ここいらは惜しかったなあ・・・。
またせっかくのブルーレイなのだから、松本でのロケ風景などはもっと
時間を取ったメイキングが観たかった。TV特番のみの収録というのは
やっぱりちょっと不満だ。星は4つです。
舟を編む
玄武書房の辞書編集部は新たな辞書『大渡海』の出版を企画する。中心となるのは変わり者ではあるが言葉に対して人並はずれた感性とこだわりを持つ馬締光也。しかし『大渡海』が世に出るまでには予想以上の時間が必要だった…。
今年2012年発表の本屋大賞に輝いた小説です。
馬締光也や同期入社の西岡正志、辞書編集部に配属された入社3年目の岸辺みどりといった面々をそれぞれ主人公とする短編が連なる連作集のような構成になっています。
辞書作りのバック・ヤード話は確かに興味深いものです。
掲載する単語を選ぶ際に、何を基準として選ぶのか、語意を説明する文章の長さはどうするのか。
頁数が膨大になるのが常の辞書ならではの、薄くても裏が透けることなく、一定の強度をもった、そして頁を繰る指に適度にからまる紙の開発話。
ゲラがあがってきたところで、本来収録してしかるべき単語が抜け落ちていたときにどう対処するのか。
こうした辞書作りという地味な作業における労苦の数々を知る楽しさは、確かにこの小説にあります。
しかし、わずか260頁程度の短い作品であるため、登場人物たちが辞書作りの途上で人生にとって大切な何かを学び、そのことで人生の舵を少し切る様子が、短兵急に描かれているのは否めません。長年月の間、辞書ひとすじに携わった馬締たちの思いが読み手に説得力をもって伝わらないのです。時間をじっくりかける紙幅がないためか、彼らが“学ぶ”過程は、時間とともに達成された熟成というよりも、まるで神からの突然の啓示のごとく唐突です。
特に辞書『大渡海』の監修者である松本先生の存在がとても薄いことに落胆しました。
小説の終盤に彼がたどる姿を見ても、それまで彼がどのように『大渡海』に熱くかかわってきたのかがほとんど描かれていないため、先生に対して馬締が感じるほどの強い思い入れが、私の心の中に生まれなかったのです。先生には出版会社の社員とはまた異なる意味の、彼自身の辞書にかける思いと命のほとばしりがあってしかるべきなのに。
辞書編纂にかける人々のやけどするほど熱く、鬼気迫る姿を描いた書にはもっと優れたものがあります。かつて私が心躍らせながら読んだ2冊の書を以下に紹介しておきます。
サイモン・ウィンチェスター『博士と狂人―世界最高の辞書OEDの誕生秘話』(ハヤカワ文庫NF)
高田宏『言葉の海へ』(洋泉社MC新書)
*42頁にある「現実を鑑みるに」という表記は誤りです。「現実に鑑みるに」というのが正しい助詞の使い方です。
夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)
1,2章を読んでいる間は、「ユニークだな」「漫画みたいで読み易い」と思っていました。
しかし、3,4章では、「学芸会みたいでレベルが低い」と思ってしまいました。
理由は分かりません。
内容的に、1,2章が”不思議な世界”なのに対して、3,4章が”想像可能な学生の世界”に見えたからかもしれません。または、”不思議な文体に慣れて、新鮮味を感じなくなった”からかもしれません。
どちらにしても、もう、同種の作品を追加で読みたいとは思えません。