サイエンス・イマジネーション 科学とSFの最前線、そして未来へ
2007年のSF大会で行われたイベント。本職のロボット科学者、ロボットを媒介とした脳神経科学者が研究成果を紹介し、SF作家が小説を書き、対談している。
2007年の本だが、この本に登場する産総研・梶田氏が「次は日本人女性の平均身長、平均体重の女の子のロボットを作りたい。」と語っていたロボットは、2010年現在、HRP-4C 未夢(ミーム)として実現化している。書の中にある、はこだて未来大学の中島教授・松原教授の言う、「人間は目標さえあればそこにたどりつく」がまさに実証された例では。時間が経つほどに、この本で「こうやりたい」としていたことは、現実になるのだろう。その意味で、たくさん未来が残っているうちに、なるべく早く読んだほうがいい。
しっかりと手を動かしながらモノを考えられる、エンジニアに近い学者の人達が自分の研究を発表し、最先端で未来に取り組むことで生活しているSF作家の人が小説を寄せている、未来への期待が高まり、何らかの方法で未来にコミットしたくなるいい本。大著だけど、肌に合わない研究や小説は読み飛ばせばいいので、読むのが難しいわけではない。
グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)
飛浩隆の作品は、繊細な残酷さに満ちている。ラギッド・ガールしかり、魔述師しかり。そして、この「グラン・ヴァカンス」しかり。そこに表現されているのは、仮想空間でのプログラムの操作にすぎないが、描かれた本質は、人間の心理であり、人間の危うさであり、人間の絶望と人間の悲哀だ。優れたフランスの文芸作品を鑑賞するように読み終えてしまった。
それは、ホラー小説の皮をかぶった恋愛小説であり、SF小説の形態をとった幻想文学。
ジュリーとジュールの二人の恋の行方。心の中に限りなく入り込むランゴーニを通して見える反転した世界。それはプログラミングされた人間の似姿だが、ひょっとするとわれわれ人間こそ、このAIたちの似姿ではないのか。そんなことを思わせる力がこの小説にはある。それに、この彫琢され磨き上げられた文体は、もっと評価されるべきだと思う。
読もうと思う人にはあまり参考にはならなかったと思うけども、わくわくするようなエンターテインメントに溢れた文学作品を求めている人にはうってつけだと思う。ぜひ、手にとって読んでほしい。読み終わると、まるで、自分の知り合いが一人、本当に息を引き取ったような静かな時間に出会うはずだ。
それは、めったにお目にかかれない稀有な書物である。
グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
あらすじとオビ(03年度ベストSF第2位)のみ見て面白そうだな、と軽い気持ちで購入しました。
あとタイトルに惹かれて…何かかっこいいなぁと。
けれど私はSFはあまり読んだこともなく、正直中盤くらいまで…理解できない部分やわかりにくい部分もあったので読むのやめようかと思ったこともあります。ただ終盤くらいから次々と分かっていく事実、曖昧に読んでいても引き込まれる世界はスゴイと思いました。特に主人公の正体がわかるくだりは目が離せませんでした。
最後はどうしようもなく切なくて、でも希望に満ちている。…読むのやめなくて良かったです。
ただSF慣れ?していない人には好き嫌いがあるかもしれないので書店で中盤を少し立ち読みしてみて読めそうなら買うのもアリかと。
続きはいつ出るんでしょう?
ラギッド・ガール 廃園の天使 2 (ハヤカワ文庫 JA ト 5-3) (ハヤカワ文庫JA)
AIの世界を描いた『グラン・ヴァカンス』の続編というか、サイドストーリーを集めた中編集といったところか。
AIものっていろいろ出ているけど、彼の作品は本当にリアルだと思う。AIの議論を突き詰めていくと、きっと人間とは何かという問いに行き着く。
この本の中でも結論は出ていないが、それを考えさせるいい小説だった。
象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)
以下の4つの短編が収録された短編集です。
1.デュオ:113頁
2.呪界のほとり: 48頁
3.夜と泥の:73頁
4.象どられた力:168頁
共通するテーマは、肉体という器に依存しない生命の存在。
幽霊とか霊などではなく、精霊や神でもないが、形を持たない生命の存在を提示しているテーマ性の強い作品である。
(デュオ)
舞台は現代の地球。主人公は、ピアニスト。推理小説のような展開で物語は進む。
(呪界のほとり)
舞台は遥か未来の、遠い星。呪界といわれる空間になっている星界の中心部を、瞬間移動するために開発された竜を連れた主人公が、呪界を外れて遭難したところから始まる物語。
(夜と泥の)
舞台は、遥か未来の殖民惑星。何十年ぶりかに再会した親友二人が、満月の夜に不思議な現象の見物に出かける。二人がそこで見たものは、
(象どられた力)
舞台は、遥か未来の3つの惑星からなる星系。形あるものを作るために必要なエネルギーを得て、形そのものが力ある存在として機能する世界。そんな世界が、形に翻弄される。