奇妙な果実―ビリー・ホリデイ自伝 (1971年)
ビリー・ホリデイの生涯は悲しみと、愛憎、そして歌によって彩られている。少女時代の悲惨な出来事、人種差別の中で、必死に耐え、自らの魂の叫びをジャズ、そして歌によって見出していった思春期。涙なくして読破することが出来ないこの書物は、日本のジャズシーンに与えた影響力も大きかった。油井正一と大橋巨泉が半分ずつ翻訳したというエピソードも有名で、この書物によってジャズの何たるか、黒人の差別の実態、女性の悲しさ、麻薬や酒におぼれながらも真実を捜し求めようとしたホリデイの人生を知ることができる。そしてホリデイの十八番「奇妙な果実」が、殺された黒人が木に串刺しにされているという惨状であり、それを淡々と歌うホリデイの悲しみと怒りの深さが、我々に衝撃を与えるのだ。
Lady Day: the Complete Billie Holiday on Columbia 1933-1944
晩年のビリーホリデイは寂しげなイメージが強いですが、ここでの彼女は気力・体力ともに十分といった感じでスイングする曲では思いきりスイングし、スローな曲では情感豊かに歌い上げています。
ルイ・アームストロングやベッシー・スミスからの強い影響を感じさせる最初期のエモーションたっぷりながらもまだまだ荒々しい歌唱から、レスター・ヤングらとともに影響しあい次第に洗練され自己のスタイルを確立していくビリーの様子はかなり聞き物です。
また演奏者たちも当時最高のミュージシャン達を集めてきたような素晴らしいメンバーばかりで、これだけ凄いとお互いのエゴがぶつかりあってまとまりのない演奏になりがちなのですが、ここではビリーの歌をしっかり立てつつ自分の個性を出すという素晴らしい職人芸を見せてくれています。なのでトランペット、サックス、クラリネットなどいずれを聞いても凄い演奏なのに全体として見事にブレンドされているという奇跡的な演奏となっています(何回聞いてもほんとに飽きない)。
これらの歴史的名演奏が10枚組でこのくらいの値段で買えるなんてうれしい限り!リマスター加減もとてもよく古い時代の演奏がリアルに響いて心地よいです。
黒人差別が公にされていたこの時代も決して白人に媚びることは無かったという気合の入ったビリー・ホリデイの魂の歌をぜひ聞いてみて下さい!!
Kimura sings Vol.2 Daylight in Harlem
一作目:Moon Call を聴いて、迷わず第二弾も選びました。第三弾はいつになるんでしょうか!!
曲によって気持ちよくスイングし、歌い上げ、ブルーズしています。英語の歌詞は自然に乗り、いつまでも聴いていたくなります。
1940年代から50年代初頭によく録音されたナンバーを、まったくの木村節にしています。ビリーホリディーが男で、大阪生まれで憂歌団にいたらこんな録音を残したかも。憂歌団の木村さん、というとある年代はエキセントリックな、簡単に言うと、あくの強いだみ声を思い浮かぶと思います。それは私ですが、たぶんたくさんの人が同意するでしょう。しかしそれはいい意味で裏切られます。渋いオヤジのヴォーカルが、うまいバックのリズム/ホーンセクションと完璧に絡み合い、最高のジャズを作り上げています。
木村のブルーズは大好きです。しかし、ここでジャズもブルーズも分けてどうなる。木村ミュージック、いつまでも。
ニューオリンズ [DVD] FRT-232
アメリカ合衆国は、リンカーン大統領と共に南北戦争が北軍の勝利となり、奴隷制度に終止符を打ったのであるが、実際には、依然として人種差別が尾を引いていた。丁度、ウイルソン大統領の時、西暦1917年のニューオールリンズを舞台に、黒人達が嬉しいにつけ悲しいにつけ唄ったブルースを基に全く斬新的なリズムが発表され、それに白人も夢中になり、体中でスイングするメロディーが生まれた。これが世に言う、Jazzの誕生である。
1947年、これを一挙に映画化されたのが、この作品である。ジャズシンガーのビリー・ホリデイがメイド役、そして、ルイ・アームストロングが本人役で出演し、全編を通じて花を咲かせている。そこに現われた、オペラ歌手ミラリーが、彼女の歌とジャズのリズムに魅せられて、更に彼女が案内した、カジノで、そのボス・ニックの心意気に次第次第に魅かれていく。二人の仲は、益々深く結ばれて行く最中、或る事件で、ニックは、ニュー・オールリンズから追放されてしまう。この先は、観てからのお楽しみ!!。監督は、「オペラ座の怪人」のアーサー・ルービン。ジャズの発祥と流行の蔭の舞台を知るためには、うってつけの教材とも言える映画だ。全編90分。筆者・大橋新也