マヤ・アステカ遺跡へっぴり紀行 ――メキシコ・グアテマラ・ホンジュラス・ベリーズの旅
歴史ミステリー番組やドラマで頻繁に取り上げられる古代エジプトやローマに比べると、なじみの薄いマヤ・アステカ文明。
これまでこの文明の名を聞いて思い描くのは、ピラミッドの頂上で神に生贄の心臓を捧げる神官や、人類の滅亡を予言すると(一部で)言われる暦くらいで、どことなく陰気なイメージを抱いていました。
しかしこの本を読んで、メソアメリカ古代文明の想像もしなかった愉快な面や明朗さに触れた思いです。マヤ・アステカ文明、特にデザインがこんなにマヌケだとは!また、遺跡や遺物に添えられたユーモアたっぷりのコメントには、いったい何度吹き出したことか。
それはきっと水先案内人である芝崎さんの、面白いもの愛らしいものに対する感性の鋭さあってこそなのでしょう。前作のエジプト本しかりギリシア本しかり、それほど興味のない文明であっても、この方が取り上げるとひとまず読んでみようかなと思わせる何かがあるのです。
専門書を手に取るまではいかないけれども、古代文明ファンとしてマヤ・アステカもちょっと覗いてみたい、という方にはぜひお勧めしたい本と言えましょう。こんな古代文明本、他ではまず見かけません。
これほどまでに情報みっちり、イラストびっちりなのにこのお値段で大丈夫なの?と思わず心配になってしまうほど充実感たっぷりの一冊です。
エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグアを知るための45章 エリア・スタディーズ
ホンジュラスに強い思い入れがある私は、彼の国に関した書籍をここ数年渉猟し続けています。しかし、私の希望に応えてくれるような書物は多くありません。中米は日本人には心理的にも遥か彼方に位置していて、その関連書籍は商業的にペイしないと見られているのでしょう。例えば島袋あゆみ著「アスタマニャーナ・また明日ね」という優れたホンジュラス滞在記も自費出版という形でしか世に出ることが出来ません。
この「エリア・スタディーズ」のシリーズでホンジュラスが取り上げられるとは思いもよりませんでした。他の2国との抱き合わせである上、ホンジュラスに割かれたのは14章と、3カ国の中では頁配分が最も少ないのですが、それでも彼の国の情報に飢餓感のある私は本書をむさぼるように読みました。
取り上げている話題はスペインによる侵略史・疲弊した経済状況・比較的安定した政治史・マヤ文明史などです。コパン遺跡に4章も配分したのは、マヤ文明の関連書が比較的豊富に出ていることに鑑みると、もったいない気がします。
またエルサルバドルとニカラグアでは文学や映画など芸術面に多少なりとも触れているのですが、ホンジュラスに関しては同様の記述が見当たりません。この点も残念です。
一方で、政治・経済に関する情報は比較的新しく、大変有益に感じられる部分も少なくありません。また他の中米国に比べてその国民性が穏健であることに触れていますが、この点は懐かしい思いとともに読みました。確かに私が首都テグシガルパで言葉を交わした人々は物腰が柔らかく、温厚な人柄を印象づけるものでした。
なお、ニカラグアの反政府組織コントラの拠点がホンジュラス国内にあったことに触れた英国映画「カルラの歌」の監督名を「ケン・クローチ」としていますが(141頁)、正しくは「ケン・ローチ」です。