J.S. バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV 988 (J.S.Bach: Goldberg Variations/ Andreas Staier) (1CD+1DVD)
わたしも,グールドの新旧録音をきいてきた人間です.しかし,シュタイアーのゴルトベルクとなれば,ともかくもきいてみたい.というわけで,早速手に入れました.全く納得のいくものでした.自在という言葉がおのずと浮かんでくるような,技術的に高度で変化にとんだ演奏です.自在さの印象は,装飾によるところも大きい.繰り返しが行われていますが,最初に鳴らしてアリアの装飾をきいたときから,完全に納得です.
添えられたDVDの映像で,本人がレジストレーションについて語っていますが,長大な全体を効果的に響かせるための綿密な設計に基づいている.しかし,そうした作為を感じさせない自然な活気を帯びています.とくに後半,豪壮という感じの16変奏,一転して,孤独感をたたえて奏でられる25変奏の時を経て,以降,30変奏のクオドリベットまで輝かしく盛り上がる.それだけに,最後に戻ってくるアリアの感慨深いこと.冒頭と同じ音楽なのに,一抹の感傷を伴って響くこの終結にはおそれいりました.この曲の真価を示すものといいたい.
わたしも若いころは「決定盤」選びなどしたものですが,もうそういう聞き方をしなくなって久しい.まして,こんな曲は,いろいろなアプローチを楽しみたいものですから,これだけあればよいとはいいません.そのときの気分によっては,少し「うるさい」と感じられるかもしれないとも思います.しかし,この曲が数学的計算に基づいて「睡眠薬」機能を期待された退屈な曲ではないことを,音で証明したとでもいいましょうか.繰り返しきいて,あちこちに発見がある録音です.
シューベルト:歌曲集(冬の旅)
プレガルディエンは、なかなかの美声で、劇的な表現力を見せつつ知的な解釈でも楽しませてくれます。タイプ的にはシュライアーと似ていると言えるかもしれません。シュタイアーのフォルテピアノによる伴奏は、でしゃばらずに、上手く歌唱を支えていると思います。録音も非常に優秀です。