博士の異常な愛情 [Blu-ray]
いわゆるフェイルセイフの失敗例で同工では「破滅への2時間」があるのだけれど、ブラックユーモア連発のこの作品は面白い。
核戦争ものの傑作は「渚にて」とかモノクロ作品が多いが、見ているうちに気にならなくなるあたりは、画質の良さもさることながら、キューブリックの手並みでしょう。
見所は一人3役のピーターセラーズの怪演で、特にストレンジラブ博士役は凄まじい。帰化したドイツ人役なのだが、興奮してつい、大統領にフューラー(総統)と呼びかけたり、ハイルヒトラーの敬礼をしようとしたり面白すぎ。
また「パットン大戦車軍団」でオスカーを取ったジョージスコットの演技も爆笑。
TVでは、爆弾が落ちるところまでだったので、人類絶滅への対応策まで語られるのが良かった。特典もさりげなく多いのでお勧め。
博士の異常な愛情 コレクターズ・エディション [DVD]
近年のうそ臭い感動押し売り、一方通行正義プロパガンダ映画とは完全に
一線を画する究極の反戦映画である。
現実とフィクションの境が狭まっている現代にこそ見なくてはならない映画
である。一体誰がフッ素の講釈を笑えるのだろうか。今も「フッ素」を違う
ものに置き換えれば、同じ講釈にはまり込んでいる事がわかる。
この映画と同じ事が起きてもおかしくない状況に世界は陥っている。
映画史上最も見事な対位法表現がされた、現実の状況を考えると下手なホラ
ー映画より怖い、背筋が寒くなる本当のブラックコメディ。
こういう映画が作られていたことを考えるとこのころのほうが、今のハリウ
ッドより健全だったということだなぁ。
PARADOX PARADE
ギタリスト岡庭が失踪し、脱退を発表してから、1ヶ月程が経った。
次のアルバムまでは、時間がかかるだろうとも思っていたが、
そんな逆境にも負けず、物凄いフルアルバムを作ってきた。
前作「BUFFALO SOUL」も名盤だったが、半年余りでここまで
レベルアップしているとは思わなかった。
正直、自分は3人でのスタートということもあって、
このアルバムには不安と期待が入り交じっていたが、
聞いた瞬間、本当に驚いた。
サポートメンバーの活躍もあって、前作の壁を見事に超えた
新たなスタートを切るアルバムとなった。
個人的に成長を感じたのが、「Flashlight & Flashback」この曲だった。
曲の構成、歌詞、ギター、疾走感。どれをとってもこのアルバムで一番の曲だと思った。
最後のサビにこんな歌詞がある。
だから生きることやめないで
心に焼き付けるのは一秒間だけ
手にしたチャンスを刻めフラッシュライト
この曲がいつ作られたのかは、分からないけれど
もしかしたら、失踪した直後の岡庭に向けられている歌詞でもあり、
3人でのスタートを切る上での覚悟の歌詞でもあるのではないかと思った。
もちろん岡庭は生きている。将来、4人で再結成するのを願いたい。
そんな気持ちにもさせるアルバムだった。
博士の異常な愛情(1枚組) [DVD]
明らかに交尾を連想させる、それもトンボか何かの昆虫類の、少しユーモラスでちょっぴりペーソスも漂うような
B−52と空中給油機の仕草、
キューブリック監督は始めからこのタイトルバックで、この作品の基本的なトーン、即ち、“おふざけ”を宣言している。
もちろんキューブリックのこと、低級なドタバタであろうはずもなく、
この導入から期待は膨らみ、裏切られることはない。
冷戦下の米ソ核兵器競争のただ中、発狂した一人の米将軍によって核ミサイル発射の指令が出される。
両国の懸命な回避努力にもかかわらず、ついに終末核戦争に突入か!?・・・という物語が、
いかにもキューブリックらしい濃いめのブラック・ジョーク満載で綴られる。
役者も曲者揃い。
発狂した将軍、ジャック・リッパー(名前からしてすでにブラックである)にはスターリング・ヘイドン、
その巨体が醸す存在感は「ゴッド・ファザー」の悪徳警部、「ロング・グドバイ」の書けない作家と同様、圧倒的である。
その将軍と渡り合う空軍基地の大佐をピーター・セラーズが素で演じている。
セラーズはさらに、全く異なる二役を巧みに演じる。見事なメークぶりで、最初は彼であることが分からなかった。
先ずは、終末戦争回避のため必死の努力をするもソ連側に振り回されるアメリカ大統領。
ホットラインに出たソ連首相が“酔っている”という下りには、思わず吹き出す。
そして、その大統領の科学顧問で、勝手に腕が“ハイル・ヒトラー”になってしまう車椅子のマッド・サイエンティスト、
ストレンジラブ博士(恐れ多くも小生もその名前を無断拝借しています)。
水爆の父といわれ、ロス・アラモスの原爆実験を目の当たりにして「なんだ、こんなものか」とうそぶいたという
エドワード・テーラー博士がモデルという。
そして、ジョージ・C・スコットが、同じ軍人でも「パットン大戦車軍団」のファナティックな時代錯誤的将軍とは異なる、
愛人を囲うちょっとコミカルでねちっこい反共軍人を演じる。役が変わっても、この人の“濃さ”は変わらない。
テンガロンハットにテキサス訛りの“クゥエ、クゥエ・イングリッシュ”で、核攻撃指令に悩みつつ、
最後にロディオよろしく核爆弾にまたがり降下するB−52機長は、どこかで見た顔だと思いませんか?
そう、後に「ゲッタウェイ」の終幕近く、スティーブ・マックイーンとアリ・マッグロウを乗せて
おんぼろトラックで国境を渡る気の良いメキシカン、かなり老けていましたが、彼がスリム・ピケンズその人です。
博士の異常な愛情 [VHS]
四の五の言わずに、まずご覧あれ。クーブリック(←英語発音では。)のペシミスティックが伺える不朽の名作(珍作?)です。セラーズの3役については、もう何も言うことは無いでしょう。脇を固めるヒトビトも負けずに「超」個性的。戦略の盲点を見事に突き刺し、ニヒリズムも加えてのラスト、BGMもさらにアイロニーをたたえて「苦笑」するしかありません。