紫禁城の栄光―明・清全史 (講談社学術文庫)
本書は、14世紀後半から19世紀初頭までの間、およそ450年間に亘る中国と周辺諸族の歩みを概観し、基本的には漢民族の体制であった中国が、明清交代とそれに引き続く満清支配の過程により、満洲・蒙古・チベット・東トルキスタンなどと融合し、今日的な帝国的構造を完成させていく状況を説き明かしています。
些か政治史に偏重している嫌いは否定できないものの、中国本部の様子だけではなく、周辺地域における諸族の歴史や、彼らと中華との相互交渉の経緯などが簡明に説明されており、たいへん勉強になります。そうした分野に光を当てることにより、満清による中華支配が、その後の中国と東アジア地域の歴史にとって如何なる意味合いをもっていたか、自ら明らかになっていくような一冊です。
オリジナルは40年近くも前に書かれた古い本ですが、今読んでみても新鮮さを失わず、また、現代中国の性格と動向を考えていく上でも、たいへん示唆に富む一冊だと思います。
紫禁城の黄昏―完訳 (上)
清朝末期から満州国成立までの溥儀の動向や歴史的背景を知る貴重な歴史資料だと思います。引退したはずの西太后がどうして光緒帝をあのように抑えることができたのか、清室優待条件がどのような経緯で成立したのか、辛亥革命後もどうして溥儀が帝号を保持できたのか、どうして革命後すぐに溥儀は満州へ戻らなかったのか、などなど、一般の歴史書には書かれていない事柄が、いろいろと書かれています。一度読んだだけでは、読み過ごしてしまいますが、じっくりと読み直してみると新しい発見がたくさんありました。
イギリスの学者が書いたものだがら、訳文は論理的で当たり前。それにしては学者臭くなく、読みやすい日本文で、とても単純なミスが多々あるようには思えません。誤訳だとか、ミスだとか言って重箱の隅をつつくのは、木を見て森を見ず。岩波版の欠点を補ってなお余りある完訳版です。