ラジオ・スターの悲劇+9
『ラジオ・スターの悲劇』の大ヒットによって、一発屋の
イメージが強いバグルスですが、実際にアルバムは2枚しか
リリースしていませんし、アルバムとしてのセールスは芳しい
ものではなかったので、一発屋というイメージもあながち
間違いではありませんが、どからといってバグルスが質の
低い音楽をやっていた訳ではありません。この『ラジオ・
スターの悲劇』をあらためて聴いてみると、随所にバグルス
というバンドの面白さが感じられ、質の高いエンターテイメント
として完成されていると感じました。
バグルスは1977年にトレバー・ホーンを中心とする3人で
結成されました。そして、1980年にリリースされたのがこの
『ラジオ・スターの悲劇』です。トレバー・ホーンはのちに
イエスなどのプロデュースで大活躍するのですが、私が一番
好きなトレバー・ホーンの仕事は、アート・オブ・ノイズ
とのものです。少々大袈裟過ぎるサウンド・プロデュースが
気持ちいい作品でした。80年代というニューウェーブという
打ち込み全盛の時代背景もトレバー・ホーン人気を後押ししました。
そんなトレバー・ホーンの特徴は、このバグルスの1st
アルバムでもはっきりと感じられます。アルバムを通しての
コンセプトは、当時では近未来だったと思われるのですが、
いま聴き返してみるとレトロ・フューチャーリスティックとでも
呼びたい感触のものです。当時の機材を使ったエレクトリックな
サウンドは、暖かみと懐かしさがありほっこりとした気分になります。
『The Living in The Plastic Age』はプラスティック世紀を
生きる、というタイトルがまさにこのアルバム、ひいてはバグルス
というバンドのコンセプトを明確に表しています。打ち込みの
リズムの跳ねるような感じ、シンセサイザーとヴォーカルで繰り
返される無機質なメロディが、いかにもという感じで嬉しくなります。
そして、次に登場するのが『Video Killed the Radio Star』!
もう歌いだしのメロディと、ヴォーカルにかけられたエフェクトが
最高です。これを聴いた瞬間、一気に胸が高鳴ります。どキャッチーな
メロディなので、誰もが楽しめる名曲ですね。さらにそれにリズムが
入ってくると、もうたまりません。並の曲ならもうこれで十分という
ところなのですが、この曲が凄いのはサビにさらにキャッチーな
メロディを持っていることです。一度聴いたらすぐに口ずさみたくなる
このメロディ!サビのヴォーカルが女性ヴォーカルに変わるという
細かい変化も心憎いですね。おもちゃ仕掛けのような可愛らしい
レトロ・フューチャリスティックなバグルスの音楽と、メロディが
完璧にシンクロした、バグルスをこれ以上なく正確に表現した奇跡の
名曲です。
そして、もう一つこの曲が持っている力を。最近、少し落ち込み
ながら車を走らせているときにこの曲が流れたのですが、全く
フィルターを通さずに胸に響いてきて、いつのまにか涙を流して
いました。悲しいという感情ではなく、癒しという感覚に近いもの
でした。何度となく聴いてきたこの曲の知らなかった魅力に気付かされた
瞬間でした。ワクワクするポップ・ソングという側面だけでなく、
胸を締め付けるような切なさをも併せもった名曲なのです。
そして、これまたタイトルがいかにもな『I Love You (Miss Robot)』。
淡々と歌われるメロディと、音だけ単体で聴くとファンキーさすら
感じるベースが、グルーヴを生み出すことなくニューウェイヴの
一つのパーツとして違和感なく機能しているところに、バグルス(
トレバー・ホーン)のプロデュース能力とバランス感覚を感じます。
『Clean, Clean』はこんな安易なメロディでいいのか!?と一瞬
思ってしまうくらいどキャッチーで、直球なサビの“Clean Clean”
が楽しい誰もが乗れる曲です。“Clean Clean”続いて弾かれる
メロディもまたまたどキャッチーで、思わず笑みがこぼれてしまいます。
この曲は全体的を通してとにかく楽しさだけを追求した曲という
感じなので、難しいことは考えずに楽しむのが正しい楽しみ方では
ないでしょうか。間奏のメロディにしても、とにかく飛び道具を
これでもかと詰め込んだ1曲です。
一転して切ないバラード、『Elstree』。この曲では特に奇を
てらうような仕掛けはほとんどなく、真っすぐ曲を聴かせにいって
います。ヴォーカル・エフェクトが若干『Video Killed the Radio
Star』を彷彿とさせるところからも、バグルスがこの曲の
メロディに自信を持っているだろうことが感じ取れます。
そして、個人的に大好きな曲、『Astroboy(And the Proles
on Parade)』です。この曲はバグルスには珍しくピアノが
登場するのが特徴ですね。音もあまり色んな音を足し過ぎずに、
隙間を残してあるところがスペース感を演出しています。サビ前の
“ピュー”というSEと、“Astroboy”という真っすぐ空に伸びて
いくようなフレーズで自分の意識がどこまでも広がっていくような
感覚になり、心が解放されます。聴いていて気持ちの良い曲ですね。
冒頭にも書かせていただきましたが、『ラジオ・スターの悲劇』
というこのバグルスのアルバムは、様々な仕掛けに富んだ
プロデュースと、『ラジオ・スターの悲劇』の大ヒットによって
色物的な見方をされることが多いですが、高いクオリティをもつ
曲が並んだ素晴らしいアルバムです。もちろんサウンド・プロデュース
も楽しいですし、それだけでなく胸にぐっとくるメロディ、そして
おもいっきり弾けられる曲まで魅力に溢れた作品です。
名盤として取り上げられることが多くないので、未聴の方も多いのでは
ないでしょうか。廉価再発の機会にこの素晴らしいアルバムが
再発見されることを願っています。
Reviewed by ちょっと寄り道 [音楽の旅] [...]
ラジオ・スターの悲劇
邦題の「ラジオスターの悲劇」というタイトルを聞けば
ピンとくる人もいるだろう、その後の大勢の
アーティストにもカヴァーされてきた稀代の名曲が
収録されているこのアルバムは、まさに、
ラジオ時代の終わりを告げる予言者的存在であった。
正直、最初バングルスと間違えて購入しそうに
なってしまったのだが、この1曲を聞いて、
バグルスと言うユニットと別で確実に分けられるようになった。
まぁ、別にどうでも良い話だが。
先ほどユニットと申したが、このユニットこそ、
後の知る人ぞ知る名プロデューサー、トレヴァー・ホーンと
ジェフリー・ダウンズの二人からなるエレクトリカル・ポップの
代表的人物でもあり、アルバムでもあった。
80年代の輝かしいムーブメントに先乗りするような、
その音楽性に当時はカルチャーショックを覚えた人も多かっただろう。
バグルスとしてはこの1枚しか出してはいないのだが、
衝撃を与えた事には間違いない。
「Video killed the radio star」 全くもって皮肉で斬新なフレーズだ。
ラジオ・スターの悲劇+3
知る人ぞ知る BUGGLESの1stで、オリジナルは1980年に発表されています。(当時は全8曲収録)
BUGGLES名義ではアルバム枚数も活動も短い期間で、現在までに、内外共色々なアーチィストにカバーされ、一発屋的イメージがあるにも関わらず意外に好んでいる人が多い事の証拠ではないだろうか。
トレヴァーホーン&ジェフタウンズが作曲した この『 VIDEO KILLED THE RADIO STAR 』は、当時としては不思議な感覚の曲でMTVでも流されていた・・・・・時代の先を行っていたとは良く言われるが、来たるべき音楽業界の未来と、これから先に向けて何か始まるワクワク感を現していたのではないか?と思う。
映画(エンパイアレコード)やドラマ、CMなど至る所で流れる、この曲は、姿、形を変え、もしくは原曲のまま、これからも至る所で流され続ける事だろう。
(ちなみに発表時、別アーチィストによる別バージョンも存在する)
実は、2NDの 『ADVENTURES IN MODERN RECORDING』(邦題では『モダンレコーディングの冒険』)と言うのも発表しているのだが、あまり知られていない様で・・・残念でならない。
こちらはレンズの割れたメガネの奥に別の世界が垣間見える挿絵がジャケに描かれており、音としては 1STよりもインパクトや特徴ない様に感じ、やや実験的な風合いな作品となっているが聴き込むと凝った作りをしている。(全6曲盤と追加の全9曲盤、さらに追加された全12曲盤のもあり、もし購入の際は注意。)