続 徳川の夫人たち 上 朝日文庫 よ 11-11
「徳川の夫人たち」が面白かったので「続‐」も購入しました。お万の方の人生を描いた「徳川の夫人たち」に比べ、こちらは歴代将軍の大奥に働く女性たちを中心に様々な主人公を描いて短編集のように進行します。ただ切れ切れに主人公が変わるのでなく、歴史の流れにそって話が途切れることなくすんなりと次の主人公に移行しますので、短編嫌いの私にも抵抗なく楽しめました。一人の人生をじっくりと読み込むのではありませんが、豊富な資料と周到な調査の上に、今までスポットの当たらなかった女性たちについて個性豊かに描かれている点は、面白かったです。ただやはり前作のような濃厚な物語を期待した方にはちょっぴり物足りなさを感じるかな、という点で星4つです。
『少女の友』創刊100周年記念号 明治・大正・昭和ベストセレクション
本書が発売されることを知ってからずっと、欲しいという気持ちとお金がもったいないという気持ちで揺れていた。でも、やっぱり欲しいので買った。買って良かった〜
いきとどいだ編集で美しい本に仕上がっている。わたしが子どものときに家にあった、戦前の「少女の友」と同じ大きさで、厚さも毎号このくらいあったように思う。戦後の時代にどこで手に入れたのか数冊あったのだ。姉がさんざん手にした後だからぼろぼろになっていたが、中原淳一の絵を薄紙に写して楽しんだり、着せ替え人形を自分で作って淳一好みのドレスを着せたりした。おませな子どもだったのねぇ。
姉の好みは戦後は「ひまわり」「それいゆ」にいったので、わたしもそれらを読むようになり、戦後の「少女の友」のことは全然知らない。昭和30年6月号が最後だったのね。創刊は明治41年2月で今年で100周年。
本書を読んでいたら、わたしが読んだ時代のがいちばん充実していたようだ。だんだんきな臭い世の中になっていって中原淳一の絵は軍部に睨まれ、昭和15年6月に降板を余儀なくされている。
本書の「世界を知る記事」というページでは、昭和15年4月号に「王城の女学生」というタイトルで、イギリスの女学生がロンドンの戦火を逃れて、ヨークシャー州のお城に避難している写真がたくさん載っている。開戦1半前に、敵国イギリスの記事をよく載せたものだ。次代を担うということで子どもたちを大切にしているのが、日本の疎開と全然違うのにいまさらながらおどろいている。
全体に中原淳一と松本かつぢの絵がいっぱい。第 I 部は「少女の友」ベスト・セレクション、川端康成の「乙女の港」、吉屋信子の「小さき花々」、松本かつぢ「くるくるクルミちゃん」その他いろんな記事がある。第 I I 部は「少女の友」100年の物語、「宝塚日記」を23年間連載した冨士野高嶺さんの思い出話、昔の愛読者が集まっての座談会、名編集者の内山基さんのことなどがある。内山さんのパートナーが内田百けん(〈けん〉は門構えに月)の長女、内田多美野さんとはじめて知った。『少女の友』創刊100周年記念号 明治・大正・昭和ベストセレクション
わすれなぐさ (河出文庫)
女学校を舞台に少女たちの交渉、生活、成長が描かれるという、吉屋信子の典型的な少女小説。乙女な雰囲気がたっぷり堪能できます。
3人の少女を軸に描かれる設定になっていますが、結果的には3人のうちの2人ばかりにスポットライトが当たり、あとの一人ははじかれてしまった、というか物語中にうまく取り込めなかったようで、お話全体のバランス配分は今イチな印象を受けます。
嶽本野ばら氏の解説と訳注は単独として読むとなかなか面白いのですが、なにぶんにも「平成的」にくだけすぎているので、本文と照らし合わせながら読むとちょっと雰囲気くずれる…と感じることも。あと、若干ながら間違いもあるようです。“五間の家”の五間はサイズじゃなくて部屋数でしょうに、とか。
花物語 下 (河出文庫 よ 9-2)
花物語の下巻は、後半の19編を収録します。花物語も後半に入ると、ストーリーも深化して時に少女小説の枠を越えたような作品が出てきます。形式も著者に宛てた投書の形(アカシヤ)、樋口一葉風に文体をまねたもの(日陰の花)といった工夫も見られます。特に「ヘリオトープ」は散文詩のような美文調でまとめた掌編です。末尾に大正12年10月14日と日付があります。大正12年9月1日の関東大震災から1ヶ月半後の作品で震災の影響が垣間見られます。
下巻のエピソードでは、さらに女同士の恋愛感情に踏み込んだ作品が出てきます。「アカシヤ」「日陰の花」「黄薔薇」「スイートピー」など。就中、「黄薔薇」は、古代ギリシアの女流詩人に言及して、まさにその世界を描いています。どのエピソードも悲しい結末に終わっており、やや苦い後味を残しますが、いずれも少女小説を超えてその先を行く力作です。
花物語をはじめ当時の少女雑誌というと、中原淳一の挿絵と決まっていました。あとがきによれば、河出文庫版の表紙絵は、中原淳一のイメージに囚われずに読んでほしいという意図からこのような表紙絵を採用したとのことです。これは良い試みと思いました。