インスブルックよ、さらば イザ
ロンドン中世アンサンブルのCDで最初に買ったものがこれですが、その選択は間違っていませんでした。二十数曲ただ集めたのではないことがわかります。一曲ごとに曲想も構成も異なる、それでいてイザ―クという偉大な巨匠の一貫した個性を感じる珠玉の曲集です。
ルネサンス音楽は「古楽」という分類なので「古い」というイメージをお持ちの方は、「9.父さん私に夫をくれた」でも聞いてみてください。これは父の命令で年寄り貴族と結婚させられた少女の嘆きを歌った歌ですが、美しい女声と男声のカノン風の歌唱にルネサンスフルートの清新な息吹がからんで、まったく時空を越えた魂の響きを伝えてくれます。西洋の感性の歴史に、こんなにも陰影にとんだ、こんなにも多彩な時代があったのかと驚きます。
ロンドン中世アンサンブルの演奏は、声楽・器楽ともに実に端正、見事な演奏です。特に器楽のみの曲では、リュートその他の古楽器のもつしっとりとした、しめやかな味わいが堪能できます。