セルジュ・ゲンスブール写真集 馬鹿者のためのレクイエム (P‐Vine BOOKs)
90年代に渋谷系を支持する若者のあいだで、もてはやされていたゲンスブール。しかしここ数年、一部のゲンスブール・マニアを除けば、我が国ではすっかりその名も色褪せてしまっていた印象は否めない...
が、なんと今年、ゲンスブール没後20年を記念してこの写真集が発売されたのである!文章は2008年に書かれたもののようだが(著者はジャーナリストで小説家)こうして翻訳され、20世紀最後のデカダンなオヤジに、ここ、日本で再びスポットがあてられるとはファンとして嬉しい限りである。伝記映画も公開され、2011年は日本におけるゲンスブール・イヤーといえるかもしれない。
本書の構成は「酒」「煙草」「創作」「映画」「文学」「政治」「バーキン」「バルドー」「バンブー」「醜さ」など...60のテーマで語られたゲンスブールの肖像(その大半が武勇伝)に関連写真が網羅され、300ページ近くある。年代順ではなく、テーマごとにあらゆる年代のゲンスブールが入り乱れている感じだ。当然だが写真集と銘打っているだけあって文章の比率は少ない。柔らかい文章とは言えないが、かといって難解でお堅い文章というわけでもない。フランス語特有のニュアンスや単語の発音など、括弧書きで説明されている箇所も多い。それでも2時間あれば読み終わる量である。
写真は晩年の(すっかり小汚いオヤジといった風貌の)ものが若干多いような印象だ。女性絡みではやはりバーキンとのツーショットが多く、B.Bとのエピソードが華やかに書かれている割にはパパラッチが撮ったような写真しか載っていない。おまけに圧倒的に量も少ない(ま、関係があれだっただけに少ないのは仕方がないとは思うけれど)あと少し残念だったのはテレビ出演時のときの映像を引き延ばしたのか、ひどく画質が粗い写真もあった。ほぼすべての写真に年月日の記載があるのは大変親切である。
ファンとしてゲンスブールの写真集が出版されたことだけでも喜ばしい出来事なのだが、この本に真新しい情報を期待して読むとやや肩を落としてしまう人もおられるかもしれない。映画を観て新たにゲンスブールに興味を持った人、とりあえずゲンスブールのことを知りたいという人は、やはり、フレンチ狂 永瀧達治さんによる『ゲンスブール、かく語りき』をお勧めする。この写真集に書かれてある内容は、写真があるかないかの違いだけで永瀧さんの著書とさほど大差はないように感じられる。永瀧さんの挑発的な文章は面白く、日本語で読むなら尚更だ。
さきほど書いたようにきれいな写真ばかりではないので写真集としての価値を問われると疑問だが、ファンであれば没後20年メモリアルとして持っておいてもよい本だろう。
60’s STYLE BOOK
表紙デザインに惹かれて購入しましたが、
どちらかと云えば、映画好きな人にお勧めだと感じました。
ただ、以前から気になっていたツイッギーのことがこの書籍で分かったので、スッキリしました。
ゲンスブールと女たち(Blu-ray Disc)
現実と幻想をシンクロさせながら、本人たちと見間違う様なドキュメントな感覚で、稀代の愛の狩人であり、不敵で不遜なカリスマであったアーティストに迫った今作は、酸いも甘いも経験した中年男には、その色気と頽廃にあてられた男心をくすぐる映画だった。
ユダヤ人として人種差別を受け、ナチ統治下には辛苦の日々を送り、醜男とのコンプレックスを持ちながら、歌手、作詞作曲家、映画監督、俳優、作家、詩人、画家として類稀な才能を発揮し、次々と高名な美女たちを夢中にさせる。
現代のカサノヴァの如きその華麗なる女性遍歴。ゲンスブールが、そのスキャンダラスな部分も含めて、時代の寵児となっていった背景としての、60年代から70年代にかけての絢爛と変革の最先端だったパリのモードは映画を観ただけではよく分からないし、今作だけで、彼のそのカリスマ的魅力を十分理解する事は難しい。
でも、破滅的な愛の深淵は窺え知れるし、彼が時折見せる苦悩や屈折感、トラウマには人間味が溢れている。
監督は、フランス・コミック界の鬼才らしいが、彼もまたユダヤ人、そして、ゲンスブールの心酔者。破天荒な異端児が持つ大胆にて繊細な感受性鋭い詩人としての一面にスポットをあてており、決して煽情的なゴシップ劇とはしていない。
ジェーン・バーキンとのセックスをライヴ感覚で吹き込んだと物議を醸した「ジュテーム・モア・ノン・プリュ」の成り立ちについても、飽くまでもあっさりとしか描かれていない。
その一方で、もうひとりの主人公をダークサイドにカリカチュア化した存在として登場させ、絶えず自問自答、心の奥底に迫ったり、劇中の名曲たちを敢えて俳優たちに歌わせたりとの拘りが感じられる。
それに、やっぱり、主演のエリック・エルモスニーノが上手い。よく見比べてみると、そこまで似てないのだが、映画の中では、本当にゲンスブール自身と思えるようなハマり役。ジャケ写真にも使われているブリジッド・バルドーとの官能の情事なんか、いかにもと思わせるのだ。
今作を観れば、セルジュ・ゲンスブールに対して興味を抱く方は多いと思う。探求の為の入門編としてもお薦め。