モンキー ビジネス 2008 Fall vol.3.5 ナイン・ストーリーズ号
サリンジャー号に引き続いて読んだが、巻頭は柴田元幸氏と岡田利規氏によるサリンジャーに関する対談。これはまぁまぁ。
ほかに良かったのは、円城塔氏の「祖母の記憶」。不思議な読後感のある話。
地獄―西岡兄妹自選作品集
漫画と言うよりも文章と絵で構成される独特の形体を持つ世界。
兄が書いた文章に妹が絵を付ける、という方法で描かれている。
いきなり「地獄に落ちていた」という言葉で始まる話。
ある朝目覚めたら巨大な芋虫になっていたよりもある意味衝撃的だ。
その後に「窓を開けても地獄だった」「恐くなってテレビをつけた。やっぱり地獄だった」
もう他では決して真似できない世界だと思う。
こんな風に収録されてる作品はほとんど殺伐としていて救いようがなくてどこか妄想的で決して癒されたり和んだり良い印象ではないと思う。
しかしだからと言って決して嫌な印象を受けるわけではない。
なんとも不思議な作品だ。
決して理解しようと思わずこの作品を読んでいったら(読むという言葉もおかしいかもしれないが)間違いなくこの世界の虜になってしまう。
トーンを使わず点描と手描きで構成される美しい絵は素晴らしい。
そういった美しい絵と「地獄」というタイトル。
まさにこの本を見事に現していると思う。
決して万人には勧められないけど、絵が気になっていて理解を必要としない内容を受け付ける人なら是非読んでみて欲しい1冊だと思う。
死んでしまったぼくの見た夢
西岡兄妹著の特徴的な作風が醸しだす、空虚な世界。
濃密な湿度なのに、不快に乾く世界が詩的に迫ります。
特にその世界を深める、のっぺりとした絵柄。
作者が表現するこの「死」の世界に、
ある意味での美意識が感じられます。
死を超えた絶望。
考えてもあがいても、
出口のない、空虚の連鎖。
美的な死を感じたいと望むと同時に、
それに反して 死にたくないと思いました。
孤高の画壇
インストポストロックといえば、ややこしい変拍子に複雑怪奇で長尺な展開、一見さんお断り的な敷居の高さを想像する人が多いだろうと思う。
そして、自分もそんな思い込みにとらわれていた、ということを気づかせてくれたのが、この虚弱。である。
平成生まれの女子四人組インストポストロックという派手な謳い文句にばかり目が行きがちだが、このバンドの本質はそこからさらに一歩踏み込んだ場所にある。
オルタナティブとして、今までとは違う音楽を求めていた世代が創り出し発見してきたポストロックと呼ばれる音楽。
それが彼女たちの世代になると、もはやオルタナティブではなく、ごく自然に身近に存在している音楽となっていることが、この孤高の画壇からわかる。
「人と違ったことをやってやろう!」とか「新しい音楽を創ろう!」という聴く人間に緊張を強いる肩に力の入った姿勢ではなく、ただ好きな音楽がそうだったからこうなった、というようなあり方。
当時は革新的であったろう体操の技が、今となっては「なんでそんな誰でもやってる技で大騒ぎしていたの?」みたいに見られるようなあり方。
ゆえに小難しさも取っつきがたさもない、非常にポップであり間口の広いインストポストロックを創り出すことが出来た。
初音ミクをフューチャーしてみせたというのも、この彼女たちでしか出来ない発想だったろうと思う。
ポストロックが追いついた世代、ポストロックから「ポスト」の文字が消え「ポップ」に変わりつつある世代の生み出した音楽が虚弱。であると思う。
「ポスト」が「ポップ」に変化していくインスト音楽の未来の種がこの孤高の画壇にはある。
小難しいことは考えず、手にとって楽しめばいい。
これは自然体になったポストロックなのだから。
この世の終りへの旅
この漫画は漫画っぽくない。絵本に近い。
漫画にエンターテイメント性を強く求める人にはお勧めできない。
でも、カフカの小説のように強くひきつける設定をもってる。
この漫画を読み終わった後に読者に何が残るのかは人それぞれかも知れないが、
「あれはどういうことなんだろうな〜」という感覚を強く残す。
また、同じフレーズの繰り返しでも計算してあり、陳腐ではない。
作者が読者に考えさせることを突きつけてる作品だ。