秀吉と利休 (新潮文庫)
この作品は決して難解ではないが、独特の硬質な文体は、はじめ、斜め読みを許さないある種の圧迫感を読者に感じさせる。しかし、読み進めるうちに、利休という歴史上の人物は、日常生活のさりげない細部と心理の描写のなかでまざまざと造形され、利休とはまさしくそれ以外の人ではありえなかったろうと読者は確信するに至り、硬質な文体から感じた当初の圧迫感は、実は著者の尋常ならざる作家魂の厳しさに他ならなかったことに気がつく。この小説の中には、黙読するうちに思わず朗読して確認せずにいられないほどに格調高く、悲劇的な描写が数多くある。このような小説はそれほど多くはない。
権力への阿諛と矜持に引き裂かれる自我は、この作品だけでなく「迷路」のテーマでもあり、時代を問わず、常に私たちの矛盾でもある。野上弥生子という、戦前、戦後の日本社会を誠実に見届けた強靱な知性によって始めて可能な傑作というべきであろう。
野上弥生子随筆集 (岩波文庫)
この本で、随筆家としての野上弥生子の鳥瞰ができる。年代順に編集されているので、その時の作者の関心がよくわかる。
各随筆は、構成も堅牢であり、読み応えがある。特に、漱石の思い出、伊藤野枝についての随筆は、迫力がある。
読んで得るところが多い。
野上弥生子短篇集 (岩波文庫)
【茶料理】は素晴らしいです。
学生時代に恋心を抱き合っていた久子と依田。
二人は結ばれる事なく、それぞれ別の家庭を築きます。
依田の洋行を新聞で知った久子からの連絡で二人は再会するのですが・・・
結末は本当に心震えます。
芥川龍之介の【秋】に似た、本当にグッとくる恋の話です。
若き日の久子の若さゆえの恋の稚拙さ、その心理描写。
成熟した後も引き摺るその純粋さ。
まさにこれこそが文学だと思わずにはいられない。
他に収録されている短編ももちろん素晴らしいです。
私は古風な恋の物語が好きなので、本作品を主にレビュー
させていただきました。