大聖堂―果てしなき世界 (上) (ソフトバンク文庫)
期待して読んでしまう。しかし、ちょっと違う。まず、アリエナのような女性は出てこない。
それから前作では、大聖堂ができるまでのプロセスが鮮やかに描かれていて、いつかこの目で大聖堂というものを直に見てみたいという衝動が沸き起こったものだ。
今度の作品では、それよりも中世の価値観に暮らす人たちの人間模様を描くことに力が入っている。とはいっても、時代は変われど人間のすることなど、変わりようが無いのだ。
今作品も建築物の話は盛り込んではあるものの、ストーリーにはあまり関係がない。
前作の大聖堂同様、読みでは確かにたっぷりある。冒頭に語られる、騎士の秘密とは?最後まで飽きずに読ませる仕掛けもちゃんとある。
大聖堂―果てしなき世界 (中) (ソフトバンク文庫)
上巻からまたさらに10年間くらいが語られていく。マーティンの出世には出来が悪いが幅を利かせている親方のエルフリックが目の上のたんこぶとなるが、マーティンの実力は誰もが認めるところとなる。カリスも父の右腕となり、布地の染色を開発していく。また、グウェンダは長男を生むが、これには後々の問題を孕んでいる。それでも夫婦で働きに働くことで、周囲からも一目置かれるようになる。
それぞれに大活躍していくのだが、反面、『スターウォーズ』ならば、ダークサイドとでもいう人々の動きも阻止できない。とにかくこの時代、権力がものをいう。権力がないと完膚なきまでに叩きのめされてお終い、となる。暴れん坊のラルフも一巻の終わりと思いきや・・・。
カリスにも重大な事件が起き、マーティンもキングズブリッジを離れてしまう事態となり、先行き不透明となる。それにしても今回は、村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』にあったような壮絶なシーンが・・・。これに似たものは、中国の処刑法で、左右の足を縛った綱の先にそれぞれ反対方向に向いた馬がおり、同時にその別々の方向に走らせるなどというのがあったが、想像するだけで痛かった・・・。また今回はペストがカギとなる。
スティル・エコー~クラシカル・
タイトルに書いたとおりです。それに尽きます。他に言葉はありません。そういう感覚は今まであまり持ったことはないのです。。大体が1曲につき、一つの楽器(一つの声)だけでの演奏です。ヒターってください。心が洗われて、そこに何かが沁みてきます。
大聖堂―果てしなき世界 (下) (ソフトバンク文庫)
ペストと聞くとかなり恐ろしいものを想像し、町中、地獄絵図が広がる気がするのだが、本書ではそこまでの感じは受けない。登場人物によっては罹り、生き残る者いれば、亡くなる者も出てくる。ペストにはマスク(今の新型インフルエンザみたいだ)という自己防衛策を巡って、ひと悶着起きる。
今回の下巻も(というか、とうとう最後まで)、かなりの物語ながら、内輪でいろいろまとめられているので、時間が経ってもそう人が増えることがなく、相関図が拡大するだけのようなものなので、本当に読みやすく助かる。この読みやすさが前作の人気の要因の1つだったのだろうか?
ようやく上巻で謎のままだった手紙の秘密が明かされ、悪人はそれなりの結果を招き、途中、「ええ?どうなるの?」という関係にも決着がつく。あの人までがそんな運命に、と驚くこともあったが、中世とはそういう時代だったのだろうかと想像するしかない。ところが、マーティンの娘ローラはとても中世の人という感じがしない。現代でいえば、コギャル世代だからだろうか?しかしマーティン、あんたはユルイ。男性から見れば「男の鑑」かもしれないが、自分にはちょっと・・・。
本書のタイトルが大聖堂だが、それもきちんとケリがつく。そしてその頂上にあったものとは。全体的に中世色が弱く、とにかく権力争いと色と欲に満ちた世界の中での、懸命に生きた人々のサバイバル史のようなお話で、時代を超越したところが面白かった。