第三の敗戦
自民党から民主党への政権交代が、せいぜい譜代門閥派井伊大老政権から一ツ橋派公武合体路線への徳川政権内政権移行ていどに比すべきという見方は、じつに卓見だと思う。
が、しかし、幕末最末期の薩・長の行動も、けっして誉められたものではなく、大久保利通など代表的だが、彼ら薩摩派は、開国を不可避と承知しつつも、本音は、着々と進む徳川政権の集権化策により自藩の存続が脅かされるのを恐れ、徳川慶喜政権への政治的足枷として「尊王攘夷」を標榜したにすぎず、日本の将来に大きな展望があって「倒幕」に突き進んだわけではない。
むしろ、徳川慶喜の側こそ、徳川幕府専制支配が続くかぎり日本の国民国家的一体化は不可能に近く、あまり薩摩、長州を追い詰めすぎると、彼らは英国など外国勢力を国内に引き入れかねないと承知すればこそ、政権への薩・長勢力取込みを目論んだのが、「大政奉還」策だったというのが正しい解釈ではないか。しかし、それでも薩・長勢力は、徳川幕府主導による外国貿易一元管理政策を拒絶して、自藩の貿易利益を最優先し英国流の「(アーネスト・サトウに知恵を借りた)自由貿易論」をイデオロギー的盾に、打倒・徳川幕府へと突き進んだ。
だが、薩・長の側とて、もう藩政府や武士たちが、支配階級として衆庶のうえに居座る時代ではないということを読み切れなかった点では、徳川幕府と同類ではなかったかと思う(倒幕派諸藩は、自藩専売製品の幕府の統制を逃れた自由貿易を求めたわけだが、自由貿易制度のもとでは、藩庁による藩内通商独占制度そのものが打破されてしまった)。
やはり、戊辰戦争から西南戦争への内乱時代の体験を経て初めて、ときの日本人も、ようやく自らが進むべき方向を掴むことも出来たというのが歴史上の事実であって、だとすると、日本人が、これから進むべき道筋を巡る現在の葛藤も、幕末期と同じように、今しばらく続くのではないだろうか。
堺屋さんの、戦後日本が60年のあいだに築き上げた既成秩序や既得権に対する、まことに切れ味鋭い批判には大いに共感したが、残念ながら、人間という政治的動物は中々変れるものではなく、やはり、現在の日本の混迷は、まだ当分のあいだは続くと見るほうが当たっているのではないかと思う。
まさか戦争や内乱ってことにはならないと思うが、けれども、風呂の炊口の火が消えて(日本経済が成長活力を喪失して)、だんだん冷えてゆく湯に首まで浸りながら、出るに出られず(失うまいと既得権に執着し続け)、しまいには湯舟のなかで寒さに震えて(日本経済が)頓死するって可能性のほうなら、今のように保守的になった日本人ならば大いに有り得ることかも知れないなぁとは思う。
日本人も物欲に凝り固まった成長百年の時代を終わり、バブルが弾けて以後、民族的に停滞2百年(文化的充実をめざす)の時代に入ったと見るほうが正解なんではないかというような気がするな。
日本を創った12人 (PHP文庫)
堺屋太一さんは、通産省での仕事や大臣の経験をお持ちですから、セレクトが政治・経済を基本になってしまいます。
得てして日本の英雄というと、話としてネタになったり、昔から語り伝えられた人物に脚光が浴びがちでが、この12人は歴史を実際に動かしてきた人物といっていいと思います。
聖徳太子は、日本文化創造のさきがけとなった人。織田信長は武将でありながら、楽市楽座など封建的な経済システムに、商業的な要素を入れて改革をすすめた人物。
大久保利通は、明治に始まる政治を近代的なシステムとするための基礎を作った政治家。
異例のマッカーサーは、理想的な戦後の日本を作ろうとした軍人。松下幸之助は、経済の視点から政治家を育てようとした経営者。
どの方も、その時々に、それぞれの立場から大きく歴史を動かした人物。この書は、ビジネスセンスを磨く一書といってもいいかもしれません。
峠の群像 [DVD]
農本主義から重商主義への転換期という経済小説の要素が入った忠臣蔵です。そのため、仇討ち派の描写と並行して、仇討ちに参加せず、塩田開発に賭ける、石野七郎次(松平健)一派の描写もあります。
主役の大石内蔵助(緒方拳)は、狂言回しと言ってもよく、浪士の中では、不破数右衛門(小林薫)と片岡源五右衛門(郷ひろみ)の動きが大きな役割を果たし(また二人ともカッコイイ特に小林薫)、堀部安兵衛が完全に霞んでいます。
石野達は、塩田開発を続けるため武士である事を捨てざるを得なくなりますが、仇討ち成功後、不忠者として赤穂を追われます。大石と別れの際、大石から「多分、誰も間違っていない。」と立場や考えの違いを理解するセリフがあっただけにやりきれません。
バカ殿丸出しの徳川綱吉(竹脇無我)、天然ボケな町子(吉田日出子)、そんな二人の間で仕事をこなす柳沢吉保(岡本富士太)の描写や、ちょっとベタでくどかったけど、石野と竹島素良(多岐川裕美)、片岡と十文字屋おゆう(古手川祐子)、不破と竹屋美波(樋口可南子)ラブロマンスも彩りをそえてくれました。
難を言わせて貰うと、オープニング音楽は素晴らしいのに、画面は露光過多でクレジットが読み難い事です。