情事 (集英社文庫 143-A)
表題作「情事」は森瑶子38歳の時の処女作でありすばる文学賞を受賞した作品である。
37歳時、作者は自分自身に絶望してた時期、版画家池田満寿夫が芥川賞を受賞したこと
を知り、それに刺激され書くきっかけになったという。
本書は主人公洋子が若さへの不安から奔放な性に駆り立てる物語である。情愛に対する
欲望と飢えが巧みに描写されており、まさに森瑶子の世界、夏を基調にした作品で冒頭
の「夏が終わろうとしていた」は印象的な一行である。
森瑶子の料理手帖
小説に出てくるお料理や森瑤子さんのこだわりがちりばめられています。森瑤子さんや、その小説、エッセイが好きな方には新しい発見があって面白いと思います。
ただ、内容は古いので冷静に今の感覚で見ると、それ、おいしそうか?とか、それ、おしゃれか?とか、いろいろ突っ込みたくなるところも出てくると思います。
あくまで好きな方に、世界観を楽しむための補足として、お勧めします。
嫉妬 (集英社文庫)
人もうらやむ、裕福な家庭。「僕に、他に、女がいる」。夫の突然の告白から始まる、妻の嫉妬。相手はどんな女?私より若いの?いつから?
次々生まれる疑問に、夫婦の亀裂は深まるばかり。そして妻は不倫の相手の女性に会いに行く。彼女の口から出た言葉は、「私たちの関係を、あなたに隠し続けることで、私たちは共通の秘密を持っていたの。それがあなたに打ち明けたことによって、今度はご主人はあなたと秘密を分け合うことを選んだのだ、と思ったの」。女性の嫉妬はとどまることを知らない。そして、そんな女達の間をのうのうと渡り歩く男性という生き物に、身の毛もよだつ嫌悪感を抱いた。
ピアニストの夢を捨て、夫のために専業主婦として家事をこなす妻が許せなかったという夫の心理、子供の教育をすべて妻の仕事としてみなす心理、これらも女としては反感を覚えた。
森瑤子氏の恋愛小説のうまさは、この生々しい感情を見事に文章にし、読み手に怒りや共感を呼ぶところだと思う。確かに女は嫉妬に燃える生き物である。でも男性と違い、その炎の行き先をすんなり決められないからこそ、醜くもあり、気高くもあるのだと思った。