サルバドールの朝 [DVD]
金を稼ぐという実に不順な動機でジャーナリスト・ボブ(ジェームズ・ウッズ)が友人を誘ってエル・サルバドルに入国。その彼の目に映った凄惨な現実。あくまでも金のためにカメラを構える彼だったが、キャサディが遺したフィルムを手にして、自分がなすべき事柄に目覚める。恋人マリアの家族ともどもアメリカへ帰ろうとするが国境で・・・。彼は自分の考えがいかに甘いものであったか思い知ると共に、エル・サルバドル政府への怒りと無力な自分に憤る。
主人公の胸の内が徐々に変わっていく過程が手にとるようにわかる。自分の無力を思い知ることとなった結末、観る者も彼と共に、どうにもならない権力に屈することとなる。
遠い異国の地の出来事として、捨てては置けない重いテーマが心に残る。さすがオリバー・ストーン。我々観る者一人一人に宿題が突きつけられたような気がする。考えることがいっぱい。中身の重さと値段の安さがつりあわない。
グッバイ、レーニン! [DVD]
ドイツ映画界久々の大ヒットとなった作品。予告を見た人たちの多くは、私も含めて西と東の較差を中心に描いたコメディを予想して映画館へ足を運んだ。実際にはめまぐるしい変化に翻弄される人々の戸惑いや東から西へと激変する社会を、壁で引き裂かれた家族-必死になって小さな子供を守ってきた親の世代と子供の頃に父親と別れて以来母子家庭に育ってきた子供の世代を通じて丁寧に描いた作品だ。
すがるように信じてきたものがある日を境に否定され、価値のあったものが、ことごとく別の世界の原理によって価値を失ってしまった。多くの人々が意外にあっさりとそのような変化を受け入れていく中で、そんなショックから、心臓の弱い母を守ろうとする息子。
病床の母を守るためにつき始めた嘘に決着をつけなければならない時が来た時、息子はこの一世一代の大嘘を突き通す決心をする。それはあまりにも馬鹿げているが、音を立てて崩れ消え去ってしまった祖国への、レクイエムでもあるようで切なさを残す。
「グッバイ、レーニン!」オリジナル・サウンドトラック(CCCD)
とかく織りなす音楽は、全面に寂寞とした感じが出ていて美しいです。サマー78の歌詞はお母さんの感覚なんでしょうか、個人的には東西ドイツやらユダヤ人やら朝鮮の人々やら、多くの人々が直面しただろう歴史を思い出し複雑な思いにとらわれます。作曲者の彼は「アメリ」で有名ですが、所々アメリっぽさもかいま見られて面白いですよ。映画を見て音楽に心とらわれちゃった人やヨーロッパ的ジメジメ感が好きな人にはおすすめできます。
割り切れなさの残る、純文学の様な作品です。
グッバイ、レーニン! (竹書房文庫)
既に映画の方で、本作品を知っていましたが改めて本の方も読んでみました。映画では少し私には疑問だった部分が本を読んだ事でより明解になりました。基本的に、映画のあらすじと同じですが社会主義体制を深く信奉するアレックスの母が心臓発作で倒れ、昏睡状態に陥ってその間にベルリンの壁が崩壊します。少しのショックをも与えて命の危険につながるということで、アレックスが必死に「東ドイツはまだ存続している」フリをするその姿がとても印象的です。この本を改めて読み、ドイツ統一は果たして良い事だったのか、今ドイツでは「オスタルギー」という新しい言葉が世間で言われていますが、東ドイツの生活の良さ、資本主義体制への変化についていけなかった東出身の人々など、東と西の格差は今もどういった面で見受けられるのか、様々に考えさせられる作品だと思います。是非、映画も合わせて鑑賞するとより面白いです!!