ガーシュイン・ソングブック(+4)(紙ジャケット仕様)
現代アメリカのポピュラー・ミュージックを代表する作曲家ガーシュインの名曲集。クリス・コナーは声の中音域に伸びがあり、端正に歌う。ス・ワンダフル、サマータイムなどの広く知られた美しい曲ばかりを張りのある美声で聴かせる。内容や曲の素晴らしさもさることながら、ブックレットも素晴らしい。解説、全ての歌の歌詞に加え、ガーシュインの英語の年譜のコピー(たぶんオリジナル盤に付けられていたものだろう)まで収録されている。それに、なんと、各曲のミュージシャン、編曲者、録音年月日のリストも付けられている。至れり尽くせりである。レコード会社の担当者の良心、ジャズにたいする愛情を感じる。買わない手はない。
ある戦慄 [DVD]
1967年のアメリカ映画。ニューヨークの地下鉄が舞台で、一つの車両に乗り合わせているのは、小さな女の子のいる夫婦、黒人夫婦、中年夫婦に老夫婦、若いカップル、軍服の兵員二人に独り者の男二人、そして酔いつぶれて寝ている浮浪者。
そこに、チンピラの男二人が乗ってくる。乗客に絡みだし、それは次第にエスカレートしていき最後には客を社内に監禁してしまう。
さて乗客達の運命は...?
面白いのは乗客それぞれが問題をかかえていて、その人間関係や性格の弱さや悪いところが、チンピラにからまれるという極限状態のなかで、具現化し表面化し悪化するところだ。真面目な中年教員を亭主にもって不満な中年婦人(この人もう年だけど脚がめちゃめちゃキレイだ)は最初チンピラに怒りの矛先を向けていたのがあまりにも亭主が不甲斐ないので最後は亭主にキレて平手打ちを食らわす。
こういう状況って世界中の都会でどこでも起こりうること。大なり小なりみんな経験があると思う。
電車のなかで傍若無人なヤツがいるとムカつくけど、注意をすると周りから注目されるのが恥ずかしいし、逆ギレされてケガとか事件とかになるのがイヤで、99.9%は知らん顔する。自分に声かけてくると最悪だけど、やっぱり99.9%知らん顔して通りすぎてくれるのを願う。
ところがこの作品のシチュエーションは、自分の連れの恋人、妻、友達がハラスメントを受けているわけで、ここでは計算が働き、自分に対するリスクと、知らん顔をしたことで後から相手の恋人、妻、友達から言われるリスクのどちらが重要かを考える。だからこそ、その関係の重要性が顕著に現れてしまうのがこの作品の残酷でなおかつおもしろいところだ。
あの日、パナマホテルで (集英社文庫)
1986年、アメリカの西海岸都市、シアトル。妻を失った中国人ヘンリーはかつての日本人街にあるパナマホテルの地下室で44年前の思い出の品を見つけました。日本人少女ケイコとの引き裂かれた苦い恋の思い出でした。
日本軍による真珠湾攻撃の翌年にヘンリーとケイコはシアトルの私立の白人中学で出会います。双方の親が子供をアメリカ人として育てるために通わせていたのです。周りからのいじめに合いながら二人は好意を抱き合うようになります。戦況が厳しさを増すとアメリカ政府は日系人12万人を中西部へ連行し、砂漠の有刺鉄線に囲まれた収容所に抑留します。ヘンリーは協力者を得て収容所までケイコに会いに行き「ずっと待っている」と約束しますが、戦争が終わってもケイコは戻って来ませんでした。
埋もれつつある史実、アメリカ国籍でありながら敵国人として迫害され、ついには全財産を失って強制収容所へ送られた日系人の歴史を作者は克明に再現して見せてくれます。高まる排日運動を詳しく描くことで幼い恋のはかなさと純粋さがいっそう際立っています。ヘンリーはケイコを守るために親と対立し、抜き差しならぬところまで追い込まれます。二人の恋を妨害することになる「親と子の絆」、「民族のアイデンティティ」を丁寧に書きこんでいるところがリアリティを高めています。
「フィクションである」と作者は断わっていますが、読み進むうちに「これはフィクションではない、ヘンリーとケイコと同じようにあの戦争によって生活を蹂躙され、人生を翻弄され、悲しい思いをした人々が大勢いたのだ」と容易に想像することができました。迫害を受けながら、気高くも潔く生きる日系人の姿を描写することでアメリカ政府へ静かな抗議を示す作者の姿勢が印象に残りました。登場人物、とりわけヘンリーとケイコがとても魅力的に描かれていて読みながら二人を応援してしまいました。
最後の1ページ、湧き上がる感情を抑えられませんでした。多くの人に読んでいただきたい秀作。私がこの数年に読んだ恋愛小説のベストワンです。
ノーザーン・ソウル・ストーリー Vol.1&2
10数年前「渋谷系」という言葉が生きていた時代、日本でもノーザンがもてはやされた時期が
確かにあったと記憶する。またいつかノーザンが新鮮に聞こえる時代が来るかどうかわからな
いが曲によっては普遍的なカッコよさがある。このCDにも「ヘルプ・ミー」スペルバインダース
「ゼアズ・ナッシング・エルス・トゥ・セイ」インクレディブルズ
「アイ・ワーシップ・ユーベイビー」グローリーズなど即死級のノーザンダンサーがいくつか
はいっている。いい選曲だ。(実は、私も詳しくは知らない)
たまには、ノーザンで踊ろう。
ディアボロス/悪魔の扉 [Blu-ray]
アンドリュー・ネイダーマンの小説を映画化したサスペンス・スリラー。監督は「愛と青春の旅立ち」で一躍注目され、近年では「レイ」で、主演のジェイミー・フォックスにオスカーをもたらしたテイラー・ハックフォード。作風に強烈なアクこそないが、丁寧な作品作りをする監督だ。
破格の待遇で迎えられた法律事務所が、実は悪の巣窟だった、というストーリーは、トム・クルーズ主演の「ザ・ファーム 法律事務所」を彷彿とさせるが、「ザ・ファーム」以上に“そのものズバリ”にしているところが面白い。演技以前に見た目で選んだのでは?と思うほど善悪ハッキリ分かりやすい主演2人のキャスティングも絶妙。オカルト的な要素を、ホラー映画のような安っぽいショック演出ではなく、「ローズマリーの赤ちゃん」のように、日常生活にじわじわと浸透してくるようなタッチで描いているのは、ハックフォードらしい品の良さだ。「ローズマリーの赤ちゃん」も本作も、舞台は同じニューヨーク。オカルトとニューヨークとは、物語的な相性が良いのかもしれない。キアヌ・リーヴスが無人の街を歩く場面は、とりわけ印象に残る。
本商品で気になるのはジャケットの“UNRATED DIRECTOR’S CUT”の文字。9月に発売される北米盤(こちらもワーナー)と同じ仕様だと思うが、現時点でその北米盤自体の情報もハッキリしていない。アマゾンの商品情報で時間が114分とあるが、劇場版が144分なので、30分短くなることは多分ないだろう(北米盤の情報では144分)。劇場版にも入らなかった場面が30分近くあるらしいので、ディレクターズ・カットであれば、長くなる可能性の方が高い。このあたりは発売時に確認しておきたい。
いずれにしても「ディアボロス」の再ソフト化は14年ぶり。好きな作品でもあるので、いざ蓋を開けても“悪魔の扉”を開くようなことにはならないだろう。発売日が楽しみだ。