中国の歴史 近・現代篇(一) (講談社文庫)
歴史の熱心な調査、研究に異議を挟むものはいないと思う。そしてそれに基づいた人物描写にも。物語は日清戦争前夜、孫文と康有為の上書から始まり、台湾の割譲の際の物語、改革と政争、ヨーロッパの侵略とそこにある軋轢。そして清帝国に住む者たちの苦悩と閉塞感、危機感。そんな中孫文は革命を志し、世界中を飛び回り革命派が組織されていく。いくつかの蜂起とそれぞれの挫折。物語は揺らぎなく進んでいく。こういう時代だからどの筆者が書いたものでも読み応えがあるが先生の筆ならなおさらではないだろうか?
小説十八史略(三) (講談社文庫―中国歴史シリーズ)
本巻では武帝がもたらした前漢の全盛期からその武帝末期の失政に端を発する前漢の衰退と滅亡、王莽の時代、後漢の成立と外戚・宦官の横暴によるその衰退、そしていよいよ三国志の序章、つまり黄巾の乱とそれが契機となった群雄の登場までをカバーします。武帝の匈奴政策に関わる人たち(例えば李陵や司馬遷)の運命の流転は他の書でも読む機会が多いでしょうが、その後の陰謀の連続といってよい歴史は、私もそうでしたが、馴染みの薄い人が多いのではないでしょうか。そういった人には本書は絶好の読み物です。皇帝専制政治の悪い面が次々と噴出します。武帝自身も罠を見抜けず有能な皇太子を死に追いやり、哀れな晩年を迎えます。陰謀をめぐらすのは宦官や外戚だけではありません。庶民の地位から登極した宣帝が善政を敷くことができたのは、霍氏一族を一掃してからでした。宣帝の時代もつかの間に終わり、凡庸な皇帝が続き、王氏一族、特に王莽が権力を奪取し、遂には自ら天子になります。この王莽が自分のたくらみを着々と進め、最後には聖人の化けの皮が剥がれて破滅に至る過程は読み応え十分で、本書の白眉だと思います。その王莽を主人公にした歴史小説が書かれるとは夢にも思いませんでしたが、塚本 青史氏が「王莽」を著し、比較的最近文庫本でも出ているので、王莽の屈折した心理を深く探求したい人は同書を併読するとよいでしょう。王莽の後、漢は復興しますが、優秀な皇帝は初代光武帝・第二代明帝ぐらいで後は政治は乱れっぱなし。混乱の中で、いよいよ三国志の英雄達が登場する時を迎えます。本シリーズの虜になった読者は次巻を待ちきれないことでしょう。
NHK特集 シルクロード デジタルリマスター版 DVD-BOX 1 第1部 絲綢之路
とうとう買ってしまいました。
中国にまだ旅行者が自由には入れなかった時代の今は失われつつある趣のある美しい現地の映像がたっぷりと楽しめます。
でもちょっと残念なのはデジタルリマスターとあったけど、画像があまり綺麗じゃないように思えます。
小説十八史略(五) (講談社文庫―中国歴史シリーズ)
本巻は、隋の煬帝の失政とその哀れな最後、その後群雄割拠の時期を経て、唐が中国を統一し、武則天による中断を挟むものの、太宗による「貞観の治」、玄宗による「開元の治」を中心に大帝国の絶頂期を迎えたのもつかの間、権力の腐敗が忍び寄り、安史の乱が勃発、顔真卿・郭子儀ら忠臣の獅子奮迅の活躍もあって安史の乱が終息するが、盛唐の時代も終わりを迎えるところまでをカバーしています。このうち、隋末・唐初の混乱期は隋等演義で取り上げられ、日本でも田中芳樹氏等の良書もありますが、多彩な人物が入り乱れて「中原に鹿を追う」波乱の時代であったことはあまり知られていないのではないでしょうか。本書では100頁以上を割いて紹介してくれます。そして意外と知られていないのは、貞観の治も開元の治もライバルの粛清から始まったという事実。食うか食われるかの時代だったのですね。また、この時代は好き嫌いはあるでしょうが、女性が華を添えた時代。武則天が中国史唯一の女帝にまでステップ・アップしていく過程には読者は引き込まれずにはいられないでしょう。彼女は優れた政治家でしたが、晩年は君側の奸の跋扈を許し、寂しい死を迎えます。奸臣が除かれ、唐が復活する場面は気分が晴れ晴れします。そして楊貴妃。親戚の不良少年あがりの楊国忠が台頭して玄宗側近の座を安禄山と争ったのが安史の乱の直接の原因。長安をのがれたところで軍がストライキを起こし、軍の要求に屈した玄宗が彼女を殺させる場面は、哀れな女の最後として本書のクライマックスと言えるでしょう。著名な人物が多数登場して波乱万丈の人生模様を織り成す本巻も、歴史の面白さを満喫させてくれます。欲を言えば、政変に巻き込まれた李白・杜甫・王維といった大詩人も取り上げていたらもっと充実した本になったでしょう。
小説十八史略(一) (講談社文庫―中国歴史シリーズ)
同著者、陳舜臣「中国の歴史」にくらべて読みやすく感じた。
これは原著が優れていたのか、それとも著者の筆力によるのかは、私には知識がなくてわからないが、非常に面白かった。
特に時代の流れ、どうしても一人の人間によっては解決できないようなうねりが、各時代のヒーローたちに、なぜそのようなことをさせたのか、がわかるような気がした。