ジミ・ヘンドリックス―リアル・エクスペリエンス
著者ノエル・レディングはジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス(ヘンドリックスのバンド)の元ベーシスト。ヘンドリックスと最も濃密な時間を過ごした人物が、伝説の天才ギタリストの実像を生々しく語ります。ヘンドリックスに対する友情、敬意、反発などが赤裸々につづられており、ヘンドリックスのファンは興味深く読めるでしょう。レディングは詳細な日記をつけ続けていたことで知られ、資料性も高いといえます。
ただし全体はレディングの自伝になっていて、ヘンドリックスが登場するのは一部分だけです(ヘンドリックスはわずか4年ほどの音楽活動の後に急死しており、レディングはその途中でバンドを脱退しているため)。
むしろ全体を通して語られているのは、音楽業界の奇々怪々な裏面です。マネージメント側がミュージシャンに押し付けてくる理不尽な契約。不透明に消えていく巨額の金。才能をすり減らし無惨に使い捨てられるミュージシャンたちの姿。エクスペリエンス脱退後、どちらかといえば不遇だったレディングの人生を通して、音楽業界の残酷な一面が次々に明らかになります。
とはいえ必ずしも陰鬱としたトーンではなく、自由に生きるミュージシャンらしい楽天的な語り口が印象的です。レディング本人が文章を書いたのではなく、口述筆記である点も奏効しているといえるでしょう。ヘンドリックスのファンだけではなく、'60年代〜'70年代のロックシーンに興味がある全ての人にお薦めです。内容的には星5つでもいいのですが、ヘンドリックスの本だと思って買うと少し肩すかしかも知れませんので、星4つにしておきます。